四者四様の「才能の深掘り」を、史上初のミックス・テープが受け止めた―ザ・ビートルズの1枚(前編)
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

bw_manami

2019/05/20

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

3位
『ザ・ビートルズ(ザ・ホワイト・アルバム)』ザ・ビートルズ(1968年/Apple/英)

 

Genre: Rock, Pop, Experimental
The Beatles (The White Album) – The Beatles (1968) Apple, UK
(RS 10 / NME 9) 491 + 492 = 983

 

 

Tracks:
M1: Back in the U.S.S.R., M2: Dear Prudence, M3: Glass Onion, M4: Ob-La-Di, Ob-La-Da, M5: Wild Honey Pie, M6: The Continuing Story of Bungalow Bill, M7: While My Guitar Gently Weeps, M8: Happiness Is a Warm Gun, M9: Martha My Dear, M10: I’m So Tired, M11: Blackbird, M12: Piggies, M13: Rocky Raccoon, M14: Don’t Pass Me By, M15: Why Don’t We Do It in the Road?, M16: I Will, M17: Julia, M18: Birthday, M19: Yer Blues, M20: Mother Nature’s Son, M21: Everybody’s Got Something to Hide Except Me and My Monkey, M22: Sexy Sadie, M23: Helter Skelter, M24: Long, Long, Long, M25: Revolution 1, M26: Honey Pie, M27: Savoy Truffle, M28: Cry Baby Cry, M29: Revolution 9, M30: Good Night

 

 スタジオ・アーティストとして爛熟期を迎えていたザ・ビートルズが世に問うた、9枚目のイギリス盤オリジナル・アルバムが本作だ。「ホワイト・アルバム」と通称される本作は、英米ともにチャート1位を独走し、大ヒットを記録。〈ローリング・ストーン〉創刊編集長のヤン・ウェナーは、当時本作をビートルズの最高傑作にして歴史的壮挙であり、「西洋音楽を統合したもの」ですらある、なんて激賞した。

 

 さすがにそれは言い過ぎだろう、と僕ですら思うが、しかし彼をしてそこまで興奮せしめた音楽的挑戦や実験、そして問答無用のロックンロールおよび永遠の名曲が、たしかにここには満載されている。LP2枚組の全30トラック、まさに4人の怒濤の創造性が叩き込まれた大作だった。ゆえに、ときに聴く人を混乱もさせた。

 

 たとえば、M5、M15のような、スキット(Skit=小話、寸劇)めいたナンバー、M22のような、アイデア一発の戯れ歌っぽいもの、さらに決定的だったのがM29「レヴォリューション9」のミュージック・コンクレート――自然音やノイズ含む、さまざまな音源を編集して「音響芸術作品」として構築する、現代芸術の手法だ――にまで至っては、「わからん!」との声も、少なくはなかった。

 

 だが今日、本作を初めて耳にした人は、率直にこう思うはずだ。「ミックス・テープみたいだ」と。曲間を綿密に設定し、ときにクロス・フェードも交えつつ展開されていくその「流れ」から、ひとつのグルーヴが浮き上がってくる「この感じ」は、90年代以降に一般的となった、DJが主導して組み上げる楽曲集の概念と酷似している。アルバムのとらえかた、いや一曲一曲のとらえかたすらも、明らかに「この時代の常識」の範疇を超えている。とてつもない先進性だと言うほかない。

 

 と、こんな構造のもとで連打される人気曲がまたすごい。M1、チャック・ベリーのロックンロール・クラシック「バック・イン・ザ・USA」(59年)と、それをネタにしたザ・ビーチ・ボーイズの諸作をも「さらにネタにした」、重層的な本歌取りから生じる疾走感が絶妙だ。これを嚆矢として、本作はポール・マッカートニーの大暴れが目立つ。(一応)スカだというM4、M20、そしてなんと言ってもあの「ブラックバード」(M11)。「ヘルター・スケルター」(M23)だってある。

 

(後編に続く)

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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