あの夏の裏っかわ、地下水脈がニューヨークの暗渠からあふれ出す―ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの1枚(前編)
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

bw_manami

2019/05/27

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

2位
『ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ』ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド(1967年/Verve/米)

 

Genre: Art Rock, Proto-Punk
The Velvet Underground & Nico – The Velvet Underground (1967) Verve, US
(RS 13 / NME 5) 488 + 496 = 984

 

 

Tracks:
M1: Sunday Morning, M2: I’m Waiting for the Man, M3: Femme Fatale, M4: Venus in Furs, M5: Run Run Run, M6: All Tomorrow’s Parties, M7: Heroin, M8: There She Goes Again, M9: I’ll Be Your Mirror, M10: The Black Angel’s Death Song, M11: European Son

 

 ロック音楽文化の「反主流派」や「傍流」「異端」、もしくは「地下にあるもの」の源流のありかを示す1枚、それがザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのデビュー・アルバムである本作だ。ロックの全体像を旧約聖書と新約聖書にたとえるならば、本作は「一度も失われなかった死海文書」にも匹敵するかもしれない。

 

 と言うと、なにやらとげとげしい内容を想像する人もいるかもしれないが、表向きはその逆だ。ざらつきながらもポップで、聴く者をそっと包み込む「やさしい」トーンが基調だ。だがしかし、その「やさしさ」は、あたかも麻薬常用者が血管に針を刺し、新たな薬物を流し込んだとき脳内に花咲く妄想にも似た……と、これは僕の独自見解ではない。M7「ヘロイン」で、はっきりと具体的にそう宣言されている。打つと「自分がキリストの息子みたいだって思えるんだ」と。この詞を書いて歌ったのは、ほとんどすべての詞と曲を書いた、ルー・リードだ。だから「ほとんどすべての詞」の主題が、多かれ少なかれ「確実に死に至る快楽」と強く関連づけられている。

 

 なぜならば人生そのものが、つまるところ「死に至る病」でしかない、からだ。難治性依存症の最たるものが「生への執着」だからだ――と、こうした類の薄暗い文学性をそなえたロック音楽が世に放たれたのは、史上初と言っていい「椿事」だった。

 

 M2は、のちにリードの重要なライヴ・レパートリーのひとつともなる1曲だ。麻薬の売人を待ってニューヨークの街頭で佇む「僕」の姿を活写している。ハンマーが連続して叩き付けられるような、ジョン・ケイルのブギ・ウギ・ピアノが印象的なロックンロールだ。そのほか、M4はマゾヒズムの語源ともなった19世紀オーストリアの作家マゾッホの『毛皮を着たヴィーナス』をモチーフとしている。

 

 本作にてフィーチャーされたドイツ生まれの歌手兼モデル兼女優、ニコの存在も大きい。訛りのある英語で平板に歌う彼女の歌唱は、リードの詞の頽廃に透明感を付与した。死の天使よろしく、壊れかけたラジオから廃墟の上に流れる、ロボトミーされた女性歌手の「リリー・マルレーン」みたいな……その真骨頂はM3「ファム・ファタール」だ。ニコはリードに次ぐ第二のヴォーカリストとして、M6、M9も歌唱した。濃厚な「破滅の影」と「抗いようもない」美と悦楽が、そこに共存していた。

 

(後編に続く)

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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