荒れに荒れた「究極100枚」ランキング・チャートを総括する(後編)【番外編・コラム】最終回
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

(前編はこちら)

 

 女性の話が出たところで、そこから追及を始めよう。マドンナも、ビヨークも今回の「ベスト100」に入らないのは、どういうことなのか? これはおもに〈ローリング・ストーン〉と〈NME〉で「票が割れた」せいだ。彼女らはどちらの「500枚」にもランクされていたのだが、対象となったアルバムが違うものだったり、そもそもの順位が低かったりして、集計でいい数字にならなかった。100位までに入らなかった。

 

 このような形で「チャートに入らなかった」アーティストを、これから思いつくままにざっと挙げてみよう。さあ、お待たせしました。「なんであれが入らなかった?」ショウの開幕だ!

 

 まずもって、「絶対に変だ」と僕が自信を持って言いきれるのが「エルヴィス・プレスリーがいない」ということだ。イーグルスもいない。エルトン・ジョンだって、いたっていいじゃないか! それよりも問題なのが、クイーンやザ・ポリスやU2やレッド・ホット・チリ・ペッパーズがいなくても、いいのか? なぜなのか?

 

 ここらへんへの答えはすべて「イギリス人が嫌っているから」だ。プレスリーにかんしては、マドンナやビヨークと同様の「票割れ」状況も見てとれるのだが、いかんせん〈NME〉が付けた順位が低すぎる(デビュー作が最高位で384位。同作は〈ローリング・ストーン〉では56位だったのだが……)。U2も(煙たがられているのか)低い。しかしどうあっても納得できないのが、これだ。イーグルスもエルトン・ジョンもクイーンもポリスもレッチリも「〈NME〉はランクインすらさせてない」のだ! なんなんだよ、それは? 「ホテル・カリフォルニア」とか、イギリス人は聴かないのか? 

 

 だがしかし、アメリカ側だって甘くはない。〈ローリング・ストーン〉のチャートが低位に置いたせいで、あるいは「ランキングさせなかった」せいで、〈NME〉のチャートにはいたものの、当ランキングから消えてしまった顔ぶれも、なかなかに味わいぶかい。

 

 オアシスが〈ローリング・ストーン〉のチャートで低位に甘んじ るのは事前に読める範囲だが(『(ホワッツ・ザ・ストーリー) モーニング・グローリー?』の1枚が378位にあるのみ。 〈NME〉では2枚ランクイン。『ディフィニトリー・メ イビー』は堂々の10位だったのだが……)、さらにブラー一切なし(〈NME〉では4枚!がランクイン)、ザ・ジャムなし(同2枚)、ザ・スペシャルズ(同1枚)もプライマル・スクリーム(同2枚)もなし――と来ると、ある意味「読め過ぎる」ような気がする人もいる、かもしれない。「ああ、やっぱりアメリカ人は『イギリスの魂』みたいなアーティストは、よくわからなくて冷遇するんだ」と。

 

 しかしこれは正確ではなくて、じつは滅法「魂」系、イギリス汁が出まくっているバンドの筆頭と言うべき存在のザ・キンクスには、逆相のねじれ現象とでも呼ぶべきものが起こっているのだ。〈ローリング・ストーン〉がキンクスを3枚もランクインさせているにもかかわらず、〈NME〉は1枚だけなのだ! そして唯一のカブリだった『ヴィレッジ・グリーン~』が低位だったため、今回の集計には入らなかった。つまり「イギリス人のせいで」キンクスは消えたと言えるのだ。クイーンやポリス、もしかしたらエルトン・ジョンにも働いた、同国人ならではの批評性(か、同族嫌悪)が過敏に影響した結果の「米高英低」現象が、これらのアーティストを沈めたようだ。

 

 また個人的には、ザ・バーズが当ランキングの100位内に入らなかったことが残念でならない。ディランのからみなどで、レビューのなかで幾度も僕は言及したのだが……〈ローリング・ストーン〉と〈NME〉双方のチャートにいたにもかかわらず、「票割れ」によって点数が伸びなかった。

 

 この票割れ現象は、当チャートにランクされたアーティストにもさまざまな影響をおよぼした。たとえば、レッド・ツェッペリンやザ・フーやボブ・マーリー、いやエルヴィス・コステロも「1枚だけ」しか入っていないこと、しかもチャートに入ったのが「あのアルバムでよかったのか、どうか」大いに疑問に思う人も多いだろう(僕は思った)。これらも全部、票割れのせいだと言っていい。

 

 同様に、ジョン・レノンのソロ作が2枚もランキングされているのに、ポール・マッカートニーもウイングスも、ジョージ・ハリスンも1枚もないのは……常識的には、ちょっと解せない。プログレッシヴ・ロックが「ピンク・フロイドの1枚だけ」というのも、あまりにひどいのではないか? サイケデリック・ロックが「ブームはあったが名盤は少なし」とされるのは、まあしょうがないとしても……。

 

 と、言いたいことが尽きない、ものの見事にぐいっと「偏った」このランキングを、あなたはどうご覧になっただろうか。このランキングから、新たな観点や議論の種が噴出することを僕は期待する。もってそれが、あなたのロックンロール・ライフの充実へと幾許か貢献することができたなら、筆者としてそれ以上の幸福はない。

 

 とにもかくにも、聴いてみよう。できりかぎり大きな音で、1枚でも多く!
 

※参考までに、これらが〈ローリング・ストーン〉〈NME〉それぞれの「500枚」オリジナル・ランキング・リストだ。

 

OutKast, ‘Aquemini’

 

The 500 Greatest Albums Of All Time: 100-1

 

この連載をまとめた新書が、7月18日に刊行予定です。乞うご期待!

 

この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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