「折り重なった「変」が新時代の幕を「切除」した」【第9回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

93位
『サーファー・ローザ』ピクシーズ(1988年/4AD/英)

Genre: Alternative Rock
Surfer Rosa – Pixies (1988) 4AD, UK
(RS 317 / NME 58) 184 + 443 = 627

 

 

Tracks:
M1: Bone Machine, M2: Break My Body, M3: Something Against You, M4: Broken Face, M5: Gigantic, M6: River Euphrates, M7: Where Is My Mind?, M8: Cactus, M9: Tony’s Theme, M10: Oh My Golly!, M11: Vamos, M12: I’m Amazed, M13: Brick Is Red

 

ひとまずは「世に狭く」ではあったものの、オルタナティヴ・ロックの時代がまもなく始まることを宣言した、記念碑的な1枚がこれだ。米マサチューセッツ州はボストン出身のピクシーズのデビュー・フル・アルバムが本作だ。

 

なんと言っても、本作は、というかピクシーズは「変」だった。当時の「ロックらしいロック」の規範からは、いろんな点が無数に逸脱していた。「ブラック・フランシス」と名乗る太った白人のフロントマンは、甲高い声で叫び、動物の鳴き声のように歌う。神経症的なギターも聞きものだ。転調やオフビートも多用されている。

 

歌詞も「変わって」いる。「スキューバ・ダイビングしていたら小さな魚に追いかけられた」というフランシスの実体験をもとに、実存的な不安と虚無を歌ったナンバー(M7)は彼らの代表曲のひとつだ。そのほか、近親相姦や身体損壊が歌われるM2、M4、女性ベーシストのキム・ディールが(おそらくは白人の)女性の黒人男性への性的執着を(しかも高らかに!)歌うM5など、一筋縄ではいかない。

 

これらの要素を、スピード感にあふれたエキサイティングな「新型」ギター・ロック・サウンドとしてまとめたのがプロデューサーのスティーヴ・アルビニだ。ハードコア・バンド、ビッグ・ブラックの元リーダーであり、この当時は日本のエロ劇画『レイプマン』に影響を受けて同名のバンドを結成、盛大なる顰蹙を買っていた――しかし「オルタナティヴ」サウンドを作ることにかけては無二の――巨匠だった。

 

かくして、全米の大学にあるラジオ局(College Radio)から、この「新しい」ロックへの支持が広がっていった。60年代の学園闘争の成果のひとつが、「学生が運営の中心となる」これらラジオ局であり、当然のことながら、70年代のパンク・ロックからポスト・パンク、60年代の前衛音楽なども愛好する、規模は小さくとも「まるで研究者のように」音楽に没頭する知的ネットワークがアメリカにはあった。ここが来るべき90年代の「オルタナティヴ・ロック」大噴火の揺りかごとなった。

 

ある社会において「主流(Mainstream)」であるものとは「まったく違う」流れ、「もうひとつの道」を指す言葉が、オルタナティヴ(Alternative)だ。ピクシーズのこの1枚は、たしかにその方向性を指し示し、多くの後進に影響を与えた。ニルヴァーナのカート・コベインもそのひとりだ。

 

次回は92位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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