権威と権力に上等切った、憤怒のギャングスタ・ラップ【第15回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

87位
『ストレイト・アウタ・コンプトン』N.W.A(1988年/Ruthless・Priority/米)

Genre: West Coast Hip Hop, Gangsta Rap, Hardcore Hip Hop
Straight Outta Compton – N.W.A (1988) Ruthless•Priority, US
(RS 144 / NME 205) 357+ 296 = 653

 

 

Tracks:
M1: Straight Outta Compton, M2: Fuck tha Police, M3: Gangsta Gangsta, M4: If It Ain’t Ruff, M5: Parental Discretion Iz Advised, M6: 8 Ball (Remix), M7: Something Like That, M8: Express Yourself, M9: Compton’s N the House (Remix), M10: I Ain’t tha 1, M11: Dopeman (Remix), M12: Quiet on tha Set, M13: Something 2 Dance 2

 

彼らのデビュー・アルバムは、史上初めて、ギャングスタ・ラップの「威力」を、全米の隅々にまで知らしめた記念碑的な1枚だ。良識層からは轟々たる非難を浴び、FBIや警察など法執行機関から正面切って叩かれながらも、本作は売れに売れた。逆にその「悪名」こそがこのアルバムを、彼らを成功へと導いていった。

 

アルバム・タイトルは「コンプトンから直送」という意味だ。コンプトン市とは、ロサンゼルス郡の南部にある自治体で、黒人とヒスパニック層が多く住み、貧困率も犯罪率も高く、荒れ果ててすさんでいる――という、そんな「現場」から、さながら戦場ルポのように届けられたハードなラップが本作には詰まっている。

 

なかでも、タイトル曲(M1)の緊張感はただごとではない。冒頭「なんでもないぜ。またべつのクロンボが死んだだけ」と吐き捨てられた直後、まるで空襲警報のサイレンのごとく鳴り響くループに乗って、全身全霊でもって「憤怒のラップ」が叩きつけられる。地元警察による黒人蔑視、不当な暴力を告発するM2もすごい。天地が逆さになったって、本作以前のアメリカで「フ××ク・ダ・ポリース!」と連呼される曲がヒットするなんてことはあり得なかった。つまり本作は「扉を開いた」。黒人でもギャングスタでもないリスナーまでもが無数に「彼ら」の側についた。

 

これらナンバーでは、アイス・キューブ、MCレン、そしてイージーEがラップしていた。タイトかつ、スリリングなトラックは、ドクター・ドレーとDJイェラの手によるものだ。別稿でも書いたとおり、ドレーはのちにプロデュース業などでとてつもない大金を稼ぐ。アイス・キューブはソロ活動のみならず、俳優や映画監督としても成功する。そして、実際に元ドラッグ・ディーラーだったイージーEは、エイズの合併症にて94年に他界する。N.W.Aはすでに91年に解散していた。

 

N.W.A (Niggaz Wit Attitudes) とは「でかい態度で上等切ってるクロンボ」とでもいった意味だ。だから彼らは「自分は不当に抑圧されている」と感じることがある人々全員にとっての、無二の親友(畏友)やヒーローたり得た。つまり、この激しくも「ストレート」きわまりないヒップホップは、原初的なロックンロールとまったく同じ機能を高次元で実現していた。ゆえに本作は多くの人々の心を打った。「聴く者の魂」を鼓舞して、勇気の松明にボッと火をともしてくれた。

 

次回は86位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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