DIY時代を駆け抜けた、青春のローファイ・ロック【第17回】著:川崎大助
究極の洋楽名盤ROCK100

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

85位
『スランテッド・アンド・エンチャンテッド』ペイヴメント(1992年/Matador/米)

Genre: Indie Rock, Lo-Fi
Slanted and Enchanted – Pavement (1992) Matador, US
(RS 135 / NME 206) 366 + 295 = 661

 

 

Tracks:
M1: Summer Babe (Winter Version), M2: Trigger Cut / Wounded-Kite at :17, M3: No Life Singed Her, M4: In the Mouth a Desert, M5: Conduit for Sale!, M6: Zürich Is Stained, M7: Chesley’s Little Wrists, M8: Loretta’s Scars, M9: Here, M10: Two States, M11: Perfume-V, M12: Fame Throwa, M13: Jackals, False Grails: The Lonesome Era, M14: Our Singer

 

この時代に広く人々から愛されたチャーム・ポイントを複数そなえていたせいで、一躍人気者となったバンド、ペイヴメントのデビュー・アルバムが本作だ。チャーム・ポイントとは、まず(1)インディー、(2)DIY、それから(3)ローファイ――この3つだった。

 

ローファイとは、オーディオ用語の「ハイファイ(Hi-Fi = High Fidelity, 原音にとても忠実)」の逆だ。といっても「原音に不忠実」だという意味ではなく、「意図せずに音が悪い」とでもいったニュアンスだ。ボロっちいもの。録音どころか演奏までも「失敗してしまった」かのようなもの……のなかにある、なにやら得体の知れない脈動を「いいねえ」なんて感じとっては愛好するようなセンスを指す。

 

つまり、狙ってないのに「そうなった」ようなポイントにこそ存在する「かわいらしさ」を愛でる、とでも言おうか。(ちょっと古いが)日本で言う「ヘタウマ」みたいなものだ。この味わいが十全に発揮されつつ、しかも「ポップな」人気曲がM1とM2だ。弾き語りから組み立てられたような、自然なメロディーが好まれた。

 

DIYとは、日曜大工のように、ガレージでクルマを直すように、なんでも「自分の手で、自分のやりかたでやる」ということだ。そもそもアメリカ人は、なにによらずこれが得意なのだが、バンド活動やレコード制作、その流通、コンサート・ツアーまで「自前で」やってしまえるようになったのが、80年代の後半だった。「インディー・バンド」や「インディー・レーベル」のネットワークが広く深く全米に根を張って、相互扶助的なエコシステムが整い始めたのが、このころだったからだ。

 

ヴォーカル、ギターでメイン・ソングライターのスティーヴン・マルクマスも、そんなネットワークのなかで育った。たとえば、彼が地元カリフォルニアのストックトンで曲作りに励んでいたとき、そのホーム・スタジオの所有者である元ヒッピーの中年男(他のメンバーより10歳以上年上だった)のギャリー・ヤングが「勝手に口を出してきて」ドラマーの座にまでおさまってしまったことも、ファンには面白がられていた(とはいえ、彼は本作のすこしあとに脱退することになるのだが)。

 

あらゆる意味で、DIY精神にのっとって制作されたような楽曲が並ぶのが本作であり、この点がカレッジ・ラジオを中心に人気を得た。

 

次回は84位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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この記事を書いた人

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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