荒ぶる創造心がとらえた「ティーンの荒れ地」の向こう【第16回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

86位
『フーズ・ネクスト?』ザ・フー(1971年/Track・Decca/英)

Genre: Hard Rock
Who’s Next – The Who (1971) Track•Decca, UK
(RS 28 / NME 319) 473 + 182 = 655

 

 

Tracks:
M1: Baba O’Riley, M2: Bargain, M3: Love Ain’t for Keeping, M4: My Wife, M5: The Song Is Over, M6: Getting in Tune, M7: Going Mobile, M8: Behind Blue Eyes, M9: Won’t Get Fooled Again

 

ザ・フーの最高傑作との呼び声も高い、彼らにとって5枚目のスタジオ・アルバムがこれだ。巷間よく言われるように、60年代の英国が生んだ「3大バンド」というと、1にビートルズ、2にローリング・ストーンズ、そして3にこのフー、という順番になる(ちなみに、4位には大抵キンクスが入る)。つまり「英国ロック史上、屈指の名盤」が本作だ。それはM1が鳴り始めた瞬間に、わかる。

 

今日の耳には、まるでこれはテクノのように聞こえるのではないか。シーケンス的に繰り返す、ローリー・バンクシャー・オルガンのループは、あるいは90年前後の「アシッド・ハウス」のように聞こえるかもしれない。

 

このM1の「Teenage Wasteland」というフレーズと呼応するのが、アルバムの最後、当時の邦題では「無法の世界」とされたM9(ストーンズの「無情の世界」に引っ掛けたのだろう)、しかし直訳するならば「もう二度と騙されるなよ」とのタイトルを持つ1曲だ。ここでもオルガンのループがある。そしてこのナンバーは、60年代後半のカウンターカルチャーの終結を総括したもの、と評されることが多い。始まったばかりの70年代、まるで「荒れ地」のような希望のない世界へと歩を進めることへの不安を抱えながらも「自分の足で歩いていくんだ」と聴き手に語りかけている、誠実なステイトメントがそこには込められているのだ、と――。

 

とはいえ、そんなことを嗅ぎ取らなくとも、本作は十分に楽しめる。さすがの僕も、M1とM9がジェリー・ブラッカイマー制作の大人気犯罪捜査ドラマ『CSI: NY』と『CSI: マイアミ』のテーマにそれぞれ使われたのを初めて見たときは驚いたが。しかしまあ、歌詞の内容は合っていなくもなかった(ほかのCSIシリーズもテーマ・ソングはなぜか全部フーだ)。M2、M4、M8も人気が高い。

 

本作の前のスタジオ・アルバムは、あのロック・オペラの『トミー』だった。ギタリストであり、メイン・ソングライターのピート・タウンゼントはさらに構想を拡大したプロジェクト『ライフハウス』のために曲を書き溜めたのだが、それが頓挫。オクラ寸前だった曲の一部を救い上げたのがこのアルバムだった……というところで、この時期の彼らのクリエイティヴィティがいかに高いレベルにあったのか、ということがわかる。『ライフハウス』は海賊盤各種にて再現されている。

 

次回は85位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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