「だれも聴いたことがない」場所を目指して無灯火走行【第18回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

84位
『トラウト・マスク・レプリカ』キャプテン・ビーフハート&ヒズ・マジック・バンド(1969年/Straight・Reprise/米)

Genre: Experimental, Art Rock
Trout Mask Replica – Captain Beefheart & His Magic Band (1969) Straight•Reprise, US
(RS 60 / NME 279) 441 + 222 = 663

 

 

Tracks:
M1: Frownland, M2: The Dust Blows Forward ‘n the Dust Blows Back, M3: Dachau Blues, M4: Ella Guru, M5: Hair Pie: Bake 1, M6: Moonlight on Vermont, M7: Pachuco Cadaver, M8: Bills Corpse, M9: Sweet Sweet Bulbs, M10: Neon Meate Dream of a Octafish, M11: China Pig, M12: My Human Gets Me Blues, M13: Dali’s Car, M14: Hair Pie: Bake 2, M15: Pena, M16: Well, M17: When Big Joan Sets Up, M18: Fallin’ Ditch, M19: Sugar ‘n Spikes, M20: Ant Man Bee, M21: Orange Claw Hammer, M22: Wild Life, M23: She’s Too Much for My Mirror, M24: Hobo Chang Ba, M25: The Blimp (mousetrapreplica), M26: Steal Softly thru Snow, M27: Old Fart at Play, M28: Veteran’s Day Poppy

 

確実に本作は「だれにでもお薦めできる1枚」ではない。というか、だれに薦めればいいのかもわからない。だがしかし、もし僕がレコード店の店長だったら、いつもかならず、このアルバムは切らさずに常備しておくだろう。その名を世に轟かせるキャプテン・ビーフハートの出世作にして、3枚目のアルバムが本作だ。

 

アウトサイダー・アートというものがある。一般的な美術制作の訓練を積んでいない人で、往々にして精神障害を持つ人々が作ったアートを指す。言うなれば本作は、音楽版の「そこ」をこそ目指した、一大叙事詩として見るのが正しい。各種の不協和音、奇妙な転調(あるいは無調)、適当に(?)打ったビートが重なってポリリズムを成す――そしてなにより、ダミ声の、おっさん声の「ビーフハート声」だ。そこには(なんというか「ムダ」な)ソウルがある……。

 

マルチ楽器奏者でもあるビーフハート本人の、ほとばしるパッションがいたるところから顔を出す――本作が幾多の実験音楽と一線を画すのは、ここだ。この変てこりんな音楽は「熱い」のだ。ソウルフルなのだ。フリー・ジャズ、あるいは「ノー・ウェイヴ」と呼ばれた、80年前後のニューヨーク・アンダーグラウンド・シーンに、突如ブルース・ファンのおっちゃん(しかし楽器は下手で音痴)が乱入したら……もしかしたら、100回に1回ぐらいは、こんな感じになるかもしれない。

 

キャプテン・ビーフハートという名は、実験的・自由奔放ロックの巨匠フランク・ザッパの命名によるものだ。ザッパは高校のときからの友人で、本作のプロデュースも彼がおこなっている。前2作の結果に不満を持っていたビーフハートは、ザッパのバックアップを得て、ついに「心底からの芸術的自由」に覚醒した、という。

 

だもんで、録音時は参加メンバーのみんなが大変だったそうで、「マンソン・ファミリーみたいなカルト教団化していた」なんて声もある。そんな作業の果てに打ち立てられた本作は、全28トラック、アナログ盤2枚組の大作となった。

 

本作が、全世界のノイズ・バンドや前衛音楽ファンに与えたインパクトは絶大だ。意外なところでは、元祖ゴス・バンド、バウハウスのピーター・マーフィーと、ジャパンのミック・カーンが84年に組んだユニットの名が「ダリズ・カー」だったのだが、それはもちろん、本作M13の曲名にちなんだものだ。

 

次回は83位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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