全世界がレゲエを知ったとき、そこには彼がいた【第21回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

81位
『ナッティ・ドレッド』ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ(1974年/ Island・Tuff Gong/英)

Genre: Roots Reggae
Natty Dread – Bob Marley & The Wailers (1974) Island•Tuff Gong, UK
(RS 181 / NME 141) 320 + 360 = 680

 

 

Tracks:
M1: Lively Up Yourself, M2: No Woman, No Cry, M3: Them Belly Full (But We Hungry), M4: Rebel Music (3 O’clock Roadblock), M5: So Jah Seh, M6: Natty Dread, M7: Bend Down Low, M8: Talkin’ Blues, M9: Revolution

 

ジョン・レノンが「70年代はレゲエの時代になる」と予言したのは有名な話だ。この予言は40%ほどしか成就しなかったと僕は考えるが、しかし、レノンと並び称されるべき音楽的カリスマ、ポップ文化史上屈指の偉人が、世に広く知られることになったのは、まさにその時代だった。ボブ・マーリーこそが、その人物だ。

 

本作は、彼がアイランド・レーベルから発表した3作目のアルバムだ。英国人のクリス・ブラックウェルが経営するレコード会社がアイランドで、レゲエをイギリスの若者層に広める役割を担ったレーベルのひとつだ。そしてボブ・マーリーこそが、アイランド最大最高のスターだった。

 

マーリーは、アイランドからザ・ウェイラーズ名義で、まず73年に2枚のアルバムを発表し、少数のロック・ファンに注目される。状況が激変したのが、74年、マーリーの曲「アイ・ショット・ザ・シェリフ」がエリック・クラプトンによってカヴァーされ、全米1位の大ヒットとなったこと。このとき世の多くの人々が、ジャマイカ発祥のこの音楽スタイルの魅力を(間接的にではあるが)知った。

 

60年代より、レゲエの前身であるスカやロックステディが英米で単発のヒットとなることはあったものの、この「クラプトン効果」は大きかった。すでに極度に商業化され、肥大化しきっていたロックを「超える」可能性がある清新な音楽としてレゲエは注目された。その期待に満額で応えたのが、マーリーのこのアルバムだ。

 

レゲエとは、圧政や人間性に反する現代文明に対する「反逆」の音楽であり、「革命」をもうながすものだ、と真摯に告げるM4、M9。そんなときに依って立つのは、宗教的思想運動である「ラスタファリズム」(M1、M5、タイトル・チューンであるM6にその色が濃い)。そしてなんと言っても、マーリーの代表曲のひとつであるM2「ノー・ウーマン、ノー・クライ」がここで初めて公開されたことは大きい。のちにあらゆるジャンルの音楽家が、繰り返しカヴァーすることになる名曲だ。激しさのかたわらにある、無制限のやさしさ、甘さ、底抜けのロマンチシズムもまた、レゲエ音楽の魅力のひとつなのだと、多くの人が知ることになった。

 

本作のあと、マーリーはライヴ盤も織り交ぜながら、勢力的にスタジオ・アルバムを制作。81年に36歳の若さで病に倒れるまで走り続けた。

 

次回は80位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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