仲間たちとの旅、ローリング・サンダーの季節【第22回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

80位
『デザイア』ボブ・ディラン(1976年/Columbia/米)

Genre: Folk Rock
Desire – Bob Dylan (1976) Columbia, US
(RS 174 / NME 143) 327 + 358 = 685

 

 

Tracks:
M1: Hurricane, M2: Isis, M3: Mozambique, M4: One More Cup of Coffee (Valley Below), M5: Oh, Sister, M6: Joey, M7: Romance in Durango, M8: Black Diamond Bay, M9: Sara

 

2016年にシンガー・ソングライターとして初めてノーベル文学賞を受賞した、ロック史上最高峰の詩人にして、数々の名曲・名演を世に送り出した音楽家、卓越した歌手、そしてつねに目が離せない波瀾万丈の人生を歩む「芸術神に愛された男」――そんなボブ・ディランの長きキャリアにおける、ピークのひとつがこれだ。邦題を『欲望』とする本作は、彼にとって17枚目のスタジオ・アルバムとなる。

 

本作の特徴は、ディラン作品において特筆すべき、大がかりなコラボレーション作業のもとに制作されたことだ。なんとあの彼が、楽曲の大半を共作している。『オー! カルカッタ』などで知られる、ソングライターであり舞台監督でもあるジャック・レヴィとともに、全9曲のうち7曲を書いているのだ。カヴァーやトラッド曲を歌うことはあっても、書き下ろし曲で他者とここまで多くの共作をおこなうのは、ディランのキャリアのなかでもきわめてめずらしい。

 

たとえばM1、殺人罪で投獄されたボクサー、ハリケーン・カーターの冤罪を訴える詞が、熱く明瞭に、エモーショナルに展開されていく人気曲に、共作の効果があらわれている。誕生日に惨殺されたマフィアの殺し屋ジョーイ・ギャロに思いを馳せるM6など、ドラマ性の強い曲が目立つのは、レヴィとの化学反応のせいだろう。

 

この共作が生まれた理由は、75年にディランが指揮した伝説的なコンサート・ツアー「ローリング・サンダー・レビュー」の影響による。ジョーン・バエズや元バーズのロジャー・マッギンほか、名だたる音楽家が参加したこのツアーは、ほぼ宣伝なしで、全米各地の小さな会場を回る、というものだった。そしてマッギンの友人であり、このツアーの第一部の監督をつとめたのがレヴィだ。ツアーの本番がスタートする直前におこなわれた本作の制作は、大勢のツアー関係者がスタジオに呼ばれつつ、進められていったそうだ。つまり、ディランと仲間たちの「コラボの季節」が生んだ1枚が本作だということだ。ちなみに、ツアーは撮影されて映画『レナルド&クララ』の一部となったのだが、同作の脚本を、ディランはサム・シェパードと共同で書いている(そしてシェパードは、ツアーの同行記も上梓した)。

 

本作は「最も売れたディランのスタジオ・アルバム」の1枚としても知られている。5週連続の全米1位を記録、ダブル・プラチナムにも認定された。

 

次回は79位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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