現実ばなれした「ロックのスーパーヒーロー」大逆転劇【第29回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

73位
『バック・イン・ブラック』AC/DC(1980年/Albert・Atlantic/豪・米)

Genre: Hard Rock
Back in Black-AC/DC (1980) Albert・Atlantic, AU・US
(RS 77 / NME 197) 424 + 304 = 728

 

 

Tracks:
M1: Hells Bells, M2: Shoot to Thrill, M3: What Do You Do for Money Honey, M4: Given the Dog a Bone, M5: Let Me Put My Love into You, M6: Back in Black, M7: You Shook Me All Night Long, M8: Have a Drink on Me, M9: Shake a Leg, M10: Rock and Roll Ain’t Noise Pollution

 

もう終わりだ、とだれもが思った瞬間、主人公が放った大技で一発大逆転!――とかいった、まるで漫画みたいな展開を現実世界で達成してしまった1枚がこれだ。オーストラリアが誇るハード・ロッカー、AC/DCの、7枚目のアルバムである本作は、徹底的に豪快で爽快な、ロックの「気合い」に満ち満ちた痛快作だ。

 

本作の制作直前、ヴォーカリストのボン・スコットが急死する。死因は、酩酊して自らの吐瀉物にて窒息したため(ロック業界ではよくある死因だ)だったのだが、このニュースはシーンに衝撃を与えた。なぜならば、彼らは前作『地獄のハイウェイ(Highway to Hell)』(79年)が米英でも大ヒット、バンドのキャリアが最高潮に達していた時期だったからだ。ゆえに前述のごとく、熱心なリスナーほど真っ暗な気持ちになっていた……のだが、そんな予想のすべてを裏切って、なんと、スコットの死から半年経たずして届けられたのが、この大充実の1枚だった。

 

邦題を「地獄の鐘の音」とするM1から、飛ばしまくりだ。M7(同「狂った夜」)、M8(同「死ぬまで飲もうぜ」)もすごい。新加入のヴォーカリスト、ブライアン・ジョンソンのハイトーンが突き刺さる。しかしなんと言っても、本作の真なる偉大さを決定づけたのは、タイトル・チューン(M6)のギター・リフだ。

 

地上で最も有名なギター・リフ、その上位5傑には絶対に入る――このフレーズを聴いて血が騒がない人がいたら、悪いことは言わない、ロックを聴くのをやめたほうがいい。ありとあらゆる映画やTV番組、CMなどで、「バック・イン・ブラック」のリフは使用され続けている。まるで発火装置であるかのように。

 

しかしこのリフですら、ギタリストのアンガス・ヤングにとっては、幾多の偉業の一例に過ぎない。ブレザーにショート・パンツという「スクール・ボーイ」ファッションでSGを弾きまくる彼の功績の数々は計り知れない。鈍重な商業的ヘヴィメタルがまさに世を覆わんとしていたこの時代に、彼は、ブルースの山塊にもつらなるピュア・ハード・ロックの原石を、まさに削り出すようにして開陳してくれた。

 

そして本作は、とてつもなく売れた。「史上最も売れたアルバム」の第1位はマイケル・ジャクソン『スリラー』なのだが、なんと3位がこの『バック・イン・ブラック』なのだ(5000万枚を突破)。本当に、漫画みたいだ。

 

次回は72位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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