永遠にあでやかに咲き誇る、ロックの陰花植物【第33回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

69位
『トランスフォーマー』ルー・リード(1972年/RCA/米)

Genre: Rock
Transformer-Lou Reed (1972) RCA, US
(RS 194 / NME 72) 307 + 429 = 736
※70位、69位の2枚が同スコア

 

 

 

Tracks:
M1: Vicious, M2: Andy’s Chest, M3: Perfect Day, M4: Hangin’ ‘Round, M5: Walk on the Wild Side, M6: Make Up, M7: Satellite of Love, M8: Wagon Wheel, M9: New York Telephone Conversation, M10: I’m So Free, M11: Goodnight Ladies

 

なんでこんなに低位なのか?!――と私憤を抱かずにはおれないほどの、名盤中の名盤がこれだ。ルー・リードのソロ第2作となる本作は、彼の長きキャリアのなかでも、まず最初に名を挙げるべき代表作だ。つまり「ある特定の種類の」ロックの最高峰に位置する1枚だということだ。体制に、世間の「主流派」に背を向け続ける(or 向けざるを得ない)人々に寄り添い、そして決して裏切らないタイプのロックの。

 

テーマの主軸は、今日で言うLGBTQの、しかも「恵まれていない」人々の人生そのものだ。「性倒錯者」なんて言葉が当たり前だったこの時代、その魂ゆえに白眼視され、凄絶な迫害を受けたため、故郷のすべてを捨てて出奔、そしてニューヨークに「上京」してくる人が、どれほどいたことか……まさにそんな状況を歌ったのが、「ワイルド・サイドを歩け」との邦題が与えられた、永遠の名曲であるM5だ。

 

マイアミからヒッチハイクしてきたホリーは、眉を抜いて脚を剃り、男性から女性になる。そして「Hey babe, take a walk on the wild side」と、だれかに向かって呼びかける。そのほか、ヴァースごとに違う人物が登場しては「ワイルド・サイドを歩きなよ」と呼びかける。そんな模様がスケッチされていく。

 

ワイルド・サイドとはなにか? 具体的には、大都会で売買春すること、かもしれない。ドラッグの使用かもしれない。退廃であり背徳であり、都市の闇に沈む汚泥のような人生、かもしれない……だがそんなすべてを、まるで慈父のようにやさしく、あたたかく包み込むような視線がこのM5を、いやアルバム全体をつらぬいている。

 

リードはこう言っているのだ。「世間がいかに酷薄だろうが」「お前『だけ』が間違ってる、と責められようが」――知ったことか!(=Take a walk on the wild side)と。あたかもそれは、地球上の各地で孤立していた少年少女たちが、マーベル・コミックス『Xメン』シリーズの「ミュータント」というタームに激しく反応したのと同質の効果をもたらした。「ロックとは『こっち側』のもの」なんだ!と。

 

そのほかも名曲ぞろいだ。M3、M7も「畢生の」ナンバーだろう。本作はヴェルヴェッツのファンだったデヴィッド・ボウイと、ジギー期だった彼のバンドのギタリスト、ミック・ロンソンが共同プロデュースしている。彼のギターが冴えるM1もいい。どんな基準でも30位以内は当然だろう?と僕は思うのだが……。

 

次回は68位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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