不可解こそ我が人生、と新星は不敵に言い放つ【第32回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

70位
『マーマー』R.E.M.(1983年/I.R.S./米)

Genre:Post-Punk, Folk Rock, Alternative Rock
Murmur-R.E.M. (1983) I.R.S., US
(RS197 / NME 269) 304 + 432 = 736
※70位、69位の2枚が同スコア

 

 

 

Tracks:
M1: Radio Free Europe, M2: Pilgrimage, M3: Laughing, M4: Talk About the Passion, M5: Moral Kiosk, M6: Perfect Circle, M7: Catapult, M8: Sitting Stil, M9: 9–9, M10: Shaking Through, M11: We Walk, M12: West of the Fields

 

初々しさがまったくない、というところが逆に初々しくもある、R.E.M. のデビュー・アルバムが本作だ。のちにカレッジ・ロック・シーンを背負って立つかのように活躍し、オルタナティヴ・ロックの先駆者として名声を獲得する彼らの「最初の一歩」は、なんというかじつに、もじもじとしていた。

 

そうなった最大の理由は、ヴォーカリストのマイケル・スタイプのせいだ。彼の歌は「よくわからない」と、このころよく言われた。滑舌の悪いトム・ペティみたいな歌いかたが原因とも言えるのだが、しかし、ちゃんと聞き取ったところで意味不明の内容だったりもするのだ。たとえば、こんなふうに。
「僕らなにか見落としたっけ?(×4回)/カタパルト(カタパルト)、カタパルト(×4回)」(M7)
「髪を結いなよ、僕らは出ていくところ/きみの袖には11の絞首台/軽薄な姿、勝った奴が持っていく/11の影、ここから抜け出す/立つのが早すぎる、部屋のなかで肩の高さに(×2回)」(M6)

 

これらは抽象ですらなく、シュルレアリスムと分類すべきだろう。だが、この「さっぱりわからない」詞が、歌として強靭なグリップ力を発揮するところ、ここに初期R.E.M. の不気味な真骨頂があった。ギタリスト、ピーター・バックの貢献が大きい。ザ・バーズを彷佛とさせる、きらきらしたリッケンバッカー・サウンド、つまり「ジャングリー・ギター」が彼の持ち味なのだが、これがタイトなリズム隊と合致すると、見事なる推進力が生まれる。聴き手を吸引して、先へ先へと連れていく。

 

かくして、たとえばシングルにもなったM1の、以下のような意味不明のフレーズで「聴き手が高揚する」なんていう、奇妙な状態が普通に出来する。

 

「荒れ狂う駅/我を忘れて/移動中に呼び出している(×2回)/レディオ・フリー・ヨーロッパ/レディオ」(M1)

 

この「奇妙さ」が、一部のリスナーを病み付きにした。セールス的には地味だったが、米英の批評家筋を瞠目させた。とくに〈ローリング・ストーン〉は、83年のベスト・アルバムに本作を選んだ。マイケル・ジャクソン『スリラー』、ポリスの『シンクロニシティ』、U2の『ウォー』などの候補作を破っての受賞だった。

 

次回は69位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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