都市のジャングルの「路上」がロックを蘇生させた【第36回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

66位
『アペタイト・フォー・ディストラクション』ガンズ・アンド・ローゼズ(1987年/Geffin/米)

Genre: Hard Rock, Glam Metal
Appetite for Destruction-Guns N’ Roses (1987) Geffin, US
(RS 62 / NME 194) 439 + 307 = 746

 

 

Tracks:
M1: Welcome to the Jungle, M2: It’s So Easy, M3: Nightrain, M4: Out Ta Get Me, M5: Mr. Brownstone, M6: Paradise City, M7: My Michelle, M8: Think About You, M9: Sweet Child o’ Mine, M10: You’re Crazy, M11: Anything Goes, M12: Rocket Queen

 

劇的に、という言葉が相応しい大ヒットにて、当時の音楽業界を引っかき回したスーパー・ヒット作が本作だ。全米1位は当然として、ビルボード・トップ200内に147週間(つまり、3年近くだ)も居座り続け、それからも売れて、近年では全世界累計で3000万枚を突破している、という――つまり、モニュメンタルと評すべきハード・ロック・アルバムが、彼らのデビュー作だった。

 

なにがどう「劇的」だったのか?というと、ある意味で本作は「メタルを救った」からだ。ヘヴィメタルは、ハード・ロックは、あるいはロックンロールは「シリアス・ビジネスなのだ」ということを、実力によって証明してみせたことだ。

 

80年代後半のこの時期、ヘヴィメタルの地盤沈下は底なしだった。とくにロサンゼルスを中心地としたグラム・メタル勢は、「ヘア・メタル」という蔑称を与えられて、お笑いの対象にすらなっていた。ヘア・スプレーで大きく盛り上げた長髪や、厚化粧、派手な色調のタイツ……といった外見が揶揄されていたのだが、実際のところこれは、ほとんどファンタジーの領域に入りつつあった、彼らの歌詞やサウンド・スタイルの書き割り的陳腐さを批判したものだった。悪趣味なMVの映像が現実世界を浸食したような状況は、シンセポップやR&Bだけではなかった。メタルは本当に、ひどいことになっていた。主要客は小学生男児じゃないかというほどに。

 

そんな状況下で、殺伐とした「ストリート」の息吹きをたたえたハード・ロックを打ち鳴らしたのが彼らだった。「ジャングルへようこそ」と歌われる、大ヒット曲のM1が指すジャングルとは、LAのことだ。真夜中の同地の、いかがわしいクラブや、麻薬の売人がうろうろする裏通りのことだ。そこに突如あらわれた、長いストレートの金髪をたなびかせ、金属音のような「とがった声」で聴く者を挑発するアクセル・ローズのヴォーカルには、覚醒的な効果があった。ギタリスト、スラッシュのクールな佇まいを、ギャングの連中までもが真似をした。新時代の緊張感あるハード・ロックが人々を狂喜させた。ドラマチックなM6、見事なるパワー・バラッドのM9といった人気曲は、今日ほぼスタンダード・ナンバーと化している。

 

50年代以来、ロックは周期的に危機に瀕する。しかし絶滅は免れる。このときのヒーローはまさしく彼らであり、このアルバムだった。

 

次回は65位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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