ロンドンのモッズ族も焦がれた「至上」のジャズ【第42回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

60位
『ア・ラヴ・スプリーム』ジョン・コルトレーン(1965年/Impulse!/米)

Genre: Modal Jazz, Avant-Garde Jazz, Free Jazz, Hard Bop
A Love Supreme-John Coltrane (1965) Impulse!, US
(RS 47 / NME 188) 454 + 313 = 767

※61位、60位の2枚が同スコア

 

 

Tracks:
M1: Part 1: “Acknowledgement”, M2: Part 2: “Resolution”, M3: Part 3: “Pursuance” / Part 4: “Psalm”

 

そう、「あの」コルトレーンだ。ハード・バップからフリー・ジャズにまで足跡を残す、ジャズ・サキソフォニストの巨星である彼の『至上の愛』との邦題で知られる、ジャズの名盤中の名盤を〈ローリング・ストーン〉も〈NME〉もランク入りさせていたから、ここで取り上げている。集計の結果、前回のピクシーズ『ドリトル』(89年)と同スコアだった。ではロックなのか?というと、もちろん狭義のロックではない。ただこれは言える。「とくにうるさがたの」ロック音楽家やファンが、非常に強くこだわって好むジャズ・アルバムとして、象徴的な1枚だ、と。

 

たとえば、ポール・ウェラーが愛聴盤の1枚として取り上げたことがある。このとき彼は、ニック・ドレイクやゾンビーズ、ビートルズ『リヴォルヴァー』といったロック、ソウルのダニー・ハサウェイらとともに、本作を挙げていた。ローランド・カーク『アイ・トーク・ウィズ・ザ・スピリッツ』(64年)と並べていたところが彼らしい。つまり「60年代ロンドンのモッズ族が好んだジャズ」のひとつがコルトレーンだったということだ。R&Bとスカ/ロックステディとモダン・ジャズが「モッズが聴く音楽」だった。なかでも「クール」の証明がコルトレーンだった。

 

またアメリカにおいては、当時吹き荒れていた公民権運動に参加していた人々の精神を鼓舞するような効果がこのアルバムにはあった、という。M1から順に「承認」「決意」、「追及」と「賛美」(パート3と4はひとつらなりの楽曲だ)と題されたナンバーに、宗教的高みを目指す修行者のような気配を感じても不思議はない。つまり、まるでマグマのごとき「熱き魂」を抱えたまま(いや、抱えているがゆえに)、それまでにあったジャズの形を突き抜けて、天の最も高いところ、まさに「至上」と呼ばれる次元を求めて格闘しているのが、本作におけるコルトレーンのプレイだ。

 

この時点の彼は、モダン・ジャズの範疇を半歩以上はみ出して、フリー・ジャズに接近していた(だがしかし、まだモーダルではあった)。この塩梅が、じつにロックなのかもしれない(ロックとは、コードからも完全に「フリー」となることが事実上不可能な音楽様式だからだ)。コルトレーンの、半分縛られながら、しかしそれでも自由を希求していくかのような吹きっぷりはすさまじい。彼の動きによって、ポリリズムが常態化しているところもスリリングだ。

 

次回は59位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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