ポップの最も天に近い場所に、ソウル音楽の山脈を【第43回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

59位
『ソングス・イン・ザ・キー・オブ・ライフ』スティーヴィー・ワンダー(1976年/Tamla/米)

Genre: Soul, Funk, R&B, Pop
Songs in the Key of Life-Stevie Wonder (1976) Tamla, US
(RS 57 / NME 172) 444 + 329 = 773

 

 

Tracks:
M1: Love’s in Need of Love Today, M2: Have a Talk with God, M3: Village Ghetto Land, M4: Contusion, M5: Sir Duke, M6: I Wish, M7: Knocks Me Off My Feet, M8: Pastime Paradise, M9: Summer Soft, M10: Ordinary Pain, M11: Isn’t She Lovely, M12: Joy Inside My Tears, M13: Black Man, M14: Ngiculela – Es Una Historia – I Am Singing, M15: If It’s Magic, M16: As, M17: Another Star, M18: Saturn, M19: Ebony Eyes, M20: All Day Sucker, M21: Easy Goin’ Evening (My Mama’s Call)

 

数え切れないほどの名曲を書いて歌ったシンガー・ソングライターであり、あらゆる楽器の高度な演奏者でもある盲目の天才、スティーヴィー・ワンダーの栄光のキャリアのなかでも、屈指の大傑作がこれだ。18作目のスタジオ・アルバムである本作は、全米1位を13週連続で独占するという、モンスター・ヒットも記録した。

 

あなたがポップ音楽ファンだったら、このアルバムを前にして、話題が尽きることはないだろう。たとえば、「可愛いアイシャ」との邦題のM11、だれもが知るあの1曲が、じつは「シングル・カットされていなかったって、知ってた?」というのを、いま僕は思いついた。

 

話題の量を担保できるだけの、本作の壮絶なるヴォリュームは特徴的だ。アナログ盤LP2枚組、それでも足りずに4曲入りの「A Something’s Extra」と題されたEPが付録となっていた。上記トラック・リストのM18からあとの4曲がそれだ。しかも最終曲(M21)がワンダーの見事なハーモニカをフィーチャーしたインスト佳曲なので、「最後の最後まで」こっちも気を抜けない。

 

ヒット曲ならM5。邦題を「愛しのデューク」とする、これも「だれもが知る」1曲だ。この曲に代表されるように、完璧なソウル音楽のマナーを踏まえたナンバーを、超一級のポップ・チューンとして仕立て上げた彼の功績によって、いかに大衆音楽の可能性が広がったか。ジャズ・フュージョンのM4、スケールの大きなファンクのM13、アフリカン・ビートのM17といったナンバーにも、同じ効果が見てとれる。この時期のワンダーは、キャリアの頂点にありながらも、アフリカ移住を試みるなど、社会的不均衡、不公正への憤りが強かった。そんな意識の反映こそが、この1時間45分(!)を、ポップ音楽の地上最高峰、ヒマラヤ山脈のごときものにならしめたのだと僕は考える。天才音楽家による、全人的闘争の成果が本作なのだ。

 

ちなみに本作は、マイケル・ジャクソンが「僕が一番好きなスティーヴィーのアルバム」と言った1作であり、ジョージ・マイケルの生涯ベスト作でもある。また今日のブルーノ・マーズに至るまで、無数の良心的音楽家たちの指針ともなっている。のちにラッパーのクーリオによってカヴァー(というよりも替え歌)された「ギャングスタ・パラダイス」の元ネタ(M8)が収録されているのも本作だ。

 

次回は58位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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