パンク夜明け前、野人どもが最後の全力疾走を【第45回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

57位
『ロウ・パワー』イギー・アンド・ザ・ストゥージズ(1973年/Columbia/米)

Genre: Garage Rock, Proto-Punk, Hard Rock
Raw Power-Iggy and The Stooges (1973) Columbia, US
(RS 128 / NME 80) 373 + 421 = 794

 

 

Tracks:
M1: Search and Destroy, M2: Gimme Danger, M3: Your Pretty Face Is Going to Hell, M4: Penetration, M5: Raw Power, M6: I Need Somebody, M7: Shake Appeal, M8: Death Trip

 

デビュー作も売れなかったが前作(第75位の『ファン・ハウス』)も売れなかった。だからレコード会社との契約を失い、アル中やらヘロイン依存がバンド内に蔓延、ほとんど活動休止――だったときに、意外な救い手があらわれる。デヴィッド・ボウイだ。彼はイギー・ポップの才能を高く買っていたし、友情もあった。そこで共同プロデュースを申し出て、レーベルまで見つけてあげる。そんな状況下で作り上げられた第3作にして、ストゥージズ最後のアルバムとなったのがこれだ。ちなみに「淫力魔人」というのは、本作に与えられた邦題だ。

 

一聴してだれもが感じるのは「これはほとんどパンク・ロックではないか」ということだろう。歴史上、パンク・ロックという音楽様式が確立したのは、ラモーンズがレコード・デビューした76年ということになっている。とはいえ、突然に天から「新しいロックの様式」が振ってくるわけはないから(あるいは「ほとんど」ないから)、そこには普通、ルーツとなるものがある。そもそもストゥージズは、同じデトロイトを根城としていたMC5同様「パンクの原点」と後年指摘されるような体質のバンドだった。そんな彼らの「根っ子」のところを純粋培養していって、まさに「パンクの夜明け直前」と呼ぶべき、エネルギッシュで猥雑なロックがここに誕生した。

 

その象徴がM1だ。カート・コベインは本作を生涯ベストの1枚として推している。パンクを、オルタナティヴ・ロックを指向する者で、このアルバムに燃えない奴がもしいたら、それは「もぐり」だ!と断言してもいい、踏み絵のような1枚だ。

 

思えば、ストゥージズは恵まれたバンドだった。第1作はヴェルヴェット・アンダーグラウンド脱退直後のジョン・ケイルがプロデュースした。荒っぽさは控え目なれど、「アイ・ウォナ・ビー・ユア・ドッグ」や「ノー・ファン」など、印象づよい名曲を世に送り出した。第2作の暴れっぷりは伝説だ。そしてここでは、ボウイが両者の中間地点を落としどころにしたのだろう。M2、M6などの(なんと)バラッドが、その先にポップが進む道を示すことにもなった。ボウイとポップの友情は持続し、本作リリース直後にまたバンドが契約を失い、完全に解散となったあと、今度はポップがボウイのいるベルリンに飛ぶ。そして、彼のソロ第1作をボウイがプロデュースし、ボウイの『ロウ』(77年)にポップが参加することになる。

 

次回は56位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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