あらゆる批判を乗り越えた、行きて帰りし物語【第47回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

55位
『グレイスランド』ポール・サイモン(1986年/Warner Bros./米)

Genre: Worldbeat, Pop, Rock, Folk
Graceland-Paul Simon (1986) Warner Bros., US
(RS 71 / NME 124) 430 + 377 = 807

 

 

Tracks:
M1: The Boy in the Bubble, M2: Graceland, M3: I Know What I Know, M4: Gumboots, M5: Diamonds on the Soles of Her Shoes, M6: You Can Call Me Al, M7: Under African Skies, M8: Homeless, M9: Crazy Love, Vol. II, M10: That Was Your Mother, M11: All Around the World or the Myth of Fingerprints

 

グラミー賞を受賞(アルバム・オブ・ザ・イヤー)、今日までにおよそ1600万枚以上を売り上げた成功作なのに、同時にここまで叩かれたアルバムは絶後だろう。

 

本作は、シンガー・ソングライター、ポール・サイモンの7作目のスタジオ・アルバムだ。「アメリカの国民的アーティスト」だと言っていい存在が、60年代のサイモン&ガーファンクルだった。そんな彼が「叩かれた」理由はただひとつ、本作が録音されたのが南アフリカ共和国で、現地の音楽家を起用して制作されたからだ。

 

当時の南アは、まだアパルトヘイト(白人を支配層とした人種隔離政策)が維持されていた。ネルソン・マンデラもまだ獄中にいた。ゆえに西側諸国では、あらゆる圧力を行使して、同国に反省と変革を求めるべしとの声が強かった。文化的ボイコットもその一部だった。だから「その禁を破った」者として、サイモンは非難された。

 

しかし彼の行動を賞賛する者もいた。南ア音楽界の象徴、ヒュー・マセケラだ。同国の音楽を世界じゅうに広めるものだ、と高く評価していた。実際そのとおりになった。またサイモンの行為は「南アの音楽を南アの人々に」再発見させもした。

 

ンバカンガという、すでに南アのポップ音楽としては「流行遅れ」だったものを、このアルバムで彼は積極的に起用した。結果それが、ンバカンガの商業的復活にもつながっていった。伝統音楽であるイシタカミアも、モダンなポップやロックとミックスされた。これらの音楽的翼によって、サイモン自身が蘇生することにもなった。

 

83年に発表した前作が低調な結果に終わったあと、プライベートも含めて、サイモンは迷走の期間に入っていた。そんなとき、たまたま耳にした南ア音楽のカセット・テープに彼は魅了された。そして音楽家としての本能の赴くまま、南アへと飛んだ。本作の表題「グレイスランド」とは、エルヴィス・プレスリーの大邸宅の名だ。タイトル曲のM2では、ロック音楽の源流への郷愁が歌われる。「僕はグレイスランドに行くところ(I’m going to Graceland)」とのラインは、当初「僕はクルマで荒れ地を抜けていくところ(I’m driving through Wasteland)」というものだった。

 

傷だらけになったサイモンが、自らの「ルーツ」に立ち戻ろうとするときに、アフリカの音楽がその助けとなった。まさにプレスリーがかつて、ブルースを得ることによって、彼のヒルビリーを「ロカビリー」にしたように。

 

次回は54位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

関連記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を

RANKINGランキング