学生寮の乱痴気騒ぎ明け、突如発生した特大創作マグマ【第48回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

54位
『ポールズ・ブティック』ビースティ・ボーイズ(1989年/Capitol/米)

Genre: Alternative Hip Hop
Paul’s Boutique-Beastie Boys (1989) Capitol, US
(RS 156 / NME 32) 345 + 469 = 814

 

 

Tracks:
M1: To All the Girls, M2: Shake Your Rump, M3: Johnny Ryall, M4: Egg Man, M5: High Plains Drifter, M6: The Sounds of Science, M7: 3-Minute Rule, M8: Hey Ladies, M9: 5-Piece Chicken Dinner, M10: Looking down the Barrel of a Gun, M11: Car Thief, M12: What Comes Around, M13: Shadrach, M14: Ask for Janice, M15: B-Boy Bouillabaisse

 

人呼んで「ヒップホップの『サージェント・ペパーズ』」。あのマイルス・デイヴィスをして「何度聴いても飽きない」とまで言わしめた1枚がこれだ。

 

本作は当初、商業的には低調だった。前作である彼らのデビュー作『ライセンスド・トゥ・イル』(86年)の印象が強烈だったからだ。爆発的にヒットした同作は、ヒップホップの歴史をねじ曲げた。「ラッパーは黒人でなければ」との世の固定観念に彼らは穴を開けた。ニューヨークで育ったユダヤ人3人組の「ワルガキ」が、まさに学生寮で狂ったパーティを繰り広げているようなその楽曲群は、またたく間にチャートを駆け上がっていった。大きな鳥かごに入れた半裸の美女に集団で缶ビールをぶっかけ(るという行為を本当にステージでやった)ーー「馬鹿でもいいじゃないか!」と大声で叫んでいるかのようなアンセムが、同作から多数生まれた。

 

しかし、彼らは本作で、変わった。「馬鹿な若者の代名詞」だったかもしれない彼らの名が、「クールの代名詞」へと転化し始めたのが、ここからだ。

 

前作が「キワモノ」ならば、本作は「正面から」ヒップホップの音楽性の限界に挑むものだった。声以外はほとんどサンプリングで組み上げられていて、アルバム全体では、その数なんと105をかぞえる。M15は1曲だけで24種のサンプル使用だ。共同プロデューサーとなった西海岸の雄、ダスト・ブラザーズの仕事だ。

 

分厚く綿密に組み上げられたタフなトラックの上で、切れ味抜群、3人の「掛け合い」ラップが高速で展開されていく……この全体像に、コアなヒップホップ・ファンがまず驚愕した。オルタナティヴ・ロック・ファンも反応した。かくして本作は、「ヒップホップ音楽全体の未来を構想した名盤」との評価を不動のものとする。

 

また本作は、彼らが活動拠点をロサンゼルスに移す先触れともなった。同地にてビースティーズはクリエイティヴな台風の目となった。インディー・レーベルや雑誌、アパレル、グラフィック・デザイン、映像……周囲に集まったクリエイターたちのなかには、のちにアカデミー賞を受賞する映画作家となる者もいた(スパイク・ジョンズ、マイク・ミルズ、ソフィア・コッポラなど)。ちょっとしたルネサンス現象のようなこの大波は、アメリカの先端都市はもちろん、ロンドンや東京にまで波及した。90年代の「ストリート」文化と呼ばれたものの一部がそれだ。

 

次回は53位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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