月の裏側に「ロックのアルバム芸術」未踏の大平原があった【第54回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

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2018/10/29

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

48位
『ザ・ダーク・サイド・オブ・ザ・ムーン』ピンク・フロイド(1973年/Harvest/英)

Genre: Progressive Rock
The Dark Side of the Moon – Pink Floyd (1973) Harvest, UK
(RS 43 / NME 132) 458 + 369 = 827

 

 

Tracks:
M1: Speak to Me, M2: Breathe (in the Air), M3: On the Run, M4: Time ~ Breathe (Reprise), M5: The Great Gig in the Sky, M6: Money, M7: Us and Them, M8: Any Colour You Like, M9: Brain Damage, M10: Eclipse

 

※48位、47位の2枚が同スコア

 

クフ王のピラミッド同様、永遠に(近いほど)消滅せぬ偉大なる事業の成果を人間界に刻み込んだーーと言っていいぐらい、歴史的な一作がこれだ。彼ら8枚目のスタジオ・アルバムとなる本作は、プログレッシヴ(前進的な)・ロックの代表作であり、いつの時代もポップ音楽の旅人たちに方位を告げる、北極星のごとき存在だ。つまり、指標だ。たとえば前回(49位)のレディオヘッド『OKコンピューター』などは「新時代の」本作である、なんて評された。

 

画期性の最たる点は、コンセプト・アルバムとしての完成度の高さだ。1曲1曲を取り出して聴けば、とくに前進的に思えないものもある、だろう。メランコリックな小品だ、とかーーだが「流れのなかで」「全体を通して」聴くと、印象がガラリと変わる。効果音だって、すべて「完璧に計算して」楽曲の一部、いやアルバムの、いいや「宇宙の」一部分を成しているのだ!……というのが、本作の真のすごみだ。

 

歌詞はすべて、このときバンドの中心人物だったロジャー・ウォーターズが書いた。船頭にして、指揮者が彼だ。曲間の無音部なしで、全体でひとつの組曲となるよう設計された楽曲群が、幾度も幾度も、相互に関連しつつ、ストーリーを、テーマを、さまざまな色と形に変転させては繰り返し浮上させる。この芸術的質量の巨大さは、「それまでのロック」とはまるで桁が違った。イマジネーションの限りを注ぎ込む器として、彼らほど「アルバム」という形態の構造的特徴を活用した者はいない。

 

本作にはシングル・ヒットまであった。M6(アナログならB面1曲目)「マネー」がアメリカで売れた。だが売れたというならば、本作そのものが「史上空前の」ロングセラー・アルバムだ。ビルボード200には15年間連続で(!)一日の抜けもなくチャート・イン。カタログ(旧譜)セールスを反映させたチャートでは、いまだに当たり前のようにそこに名がある。その売り上げ総計は5000万枚に達したと見られており、マイケル・ジャクソン『スリラー』やAC/DC『バック・イン・ブラック』と並ぶ、人類史上屈指のセールスを誇る……のだが、このままのペースでいくと、いずれトップに立つのは本作かもしれない。才気あふれるデザイン集団ヒプノシスが手掛けたアートワークも、アルバムのジャケット・デザイン界の「モナリザ」と言っていいぐらい有名だ。邦題は『狂気』だった。

 

次回は47位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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