欲に目が眩むとどうなるのか?
高橋昌一郎『<デマに流されないために> 哲学者が選ぶ「思考力を鍛える」新書!』

現代の高度情報化社会においては、あらゆる情報がネットやメディアに氾濫し、多くの個人が「情報に流されて自己を見失う」危機に直面している。デマやフェイクニュースに流されずに本質を見極めるためには、どうすればよいのか。そこで「自分で考える」ために大いに役立つのが、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」である。本連載では、哲学者・高橋昌一郎が、「思考力を鍛える」新書を選び抜いて紹介し解説する。

 

欲に目が眩むとどうなるのか?

 

相楽総一『株・手形・不動産「騙し」の手口』(双葉新書)2013年

 

連載第7回で紹介した『だます心 だまされる心』に続けて読んでいただきたいのが、『株・手形・不動産「騙し」の手口――平成経済裏面史』である。本書をご覧になれば、金融詐欺とは何か、日本経済の裏側で何が起きているのか、欲に目が眩んで巨額の金に群がる人々が最後にどうなるのか、読者の脳裏に浮かび上がることだろう。

 

著者の相楽総一氏は、1960年生まれ。立命館大学経営学部卒業後、ユニバーサル証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に勤務、経済誌編集者を経て独立。現在はノンフィクション・ライター。とくに経済の「裏面」を探る取材で知られ、『3年後に笑う建設会社 泣く建設会社』(ベストブック)や『刑事捜査バイブル』(共著、双葉社)などの著書もある。

 

本書は、(1)株式犯罪のカラクリ(株価操作、風説の流布、偽計取引、インサイダー取引、損失補てん・五%ルール違反、粉飾決算、未公開株・偽造株券、不正・架空増資、株券詐取・デス)、(2)手形犯罪のカラクリ(手形詐取、手形偽造、不渡り詐欺)、(3)不動産犯罪のカラクリ(競売妨害、地面詐欺)の3章によって構成されている。

 

どの言葉もニュースで耳にしたことはあるものの、経済事情に詳しい関係者を除けば、明確に説明することが困難な概念ではないだろうか。本書は、ライブドア事件をはじめとする豊富な「平成経済裏面史」の実例を交えて、多彩な金融詐欺の「カラクリ」を教えてくれる。

 

たとえば「粉飾決算」とは、会社の業績を必要以上によく見せるために、不正な会計処理を行い、「損益計算書」や「貸借対応表」などの財務諸表に虚偽を織り交ぜて報告すること。上場企業の場合、会社の業績悪化は株価下落に直結するため、経営陣は株主から突き上げられないように、少しでも決算をよく見せようとする。赤字決算になれば、対外的にも信用不安を招き、金融機関からの借り入れが困難になる可能性もあるから、経営陣も必死である。

 

2011年には、オリンパスの「粉飾決算」が発覚して、経営陣が東京地検特捜部に逮捕された。オリンパスは、バブルが崩壊した1991年当時に巨額の損失を出したにもかかわらず、20年に渡って「粉飾決算」を公表し続けてきた。歴代社長は、そのことを知りつつ「損失隠蔽」を続けてきたのだから、会社の経営体質に根本的な問題があったと言わざるを得ない。

 

同じくバブル崩壊以降に「粉飾決算」を繰り返したカネボウは、上場廃止に追い込まれた。2015年には、東芝が7年間で1500億円を超える利益の水増しを行ったことが発覚。最近では、日産の検査不正隠蔽がバレたように、倫理観の欠如した大企業は、後を絶たない。

 

日本は「インサイダー天国」だと外国から批判されているという。インサイダー取引とは、上場会社などの「重要な事実」を知る立場にある者が、その特別な立場を利用して利益を得ること。これから発表される会社の「重要な事実」さえ知っていれば、ほぼ確実に株で儲けることができるわけだから、会社の役員や幹事証券会社の社員が嫌疑を受ける例が多い。

 

インサイダー取引は「金融法」第166条で厳しく禁じられ、違反すれば「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金」だが、「重要な事実」の解釈が困難ということもあり、外国に比べて日本では立件され難いという。相楽氏は「誰もが一生に一度はインサイダー情報に接する可能性がある」と述べているが、そこで欲に目が眩むとどうなるのだろうか。

 

上場企業が増資を行う際には「公示」が義務付けられているが、その原稿を事前に読んだ日経新聞の社員が、株で大儲けしていた。また、株式分割を行う会社が印刷会社に株券を大量に発注したところ、印刷会社の女子事務員が株を買って1億円以上荒稼ぎした事件もある。さらに、NHKのディレクターに至っては、放送前のニュース・リリースを報道用端末で読んで日常的に株を売買していた。彼らは、全員逮捕されて有罪判決を受け、職を失った。

 

取材の過程で協力してもらったブローカーと仕手筋の二人がこの世を去っている。ブローカーは深夜事務所で倒れ、その後発見されたが、そのまま意識が戻らず亡くなった。当初、彼が取り扱っていた案件が危ない筋に関係していたため、「殺されたのではないか」とみられていたが、死因は脳溢血だったと判明した。もう一人、仕手筋の死因は自殺。大変な子煩悩で、会って取材が一段落すると、息子や娘の自慢話をよくしてくれた。ブローカーや仕手筋と呼ばれる人たちが株式市場の「闇の部分」に関わっていたのは事実ながら、「失われた二十年」の間、彼らに日本経済を動かしていた一面があったことも忘れてはならない。(P.6)

 

金融詐欺とは何か、そしてバブル経済崩壊後の「失われた二十年」に何が裏側で起ったのかを理解するためにも、『株・手形・不動産「騙し」の手口』は必読である!

<デマに流されないために> 哲学者が選ぶ「思考力を鍛える」新書!

高橋昌一郎(たかはし・しょういちろう)

國學院大學教授。専門は論理学・哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『ゲーデルの哲学』(講談社現代新書)、『反オカルト論』(光文社新書)、『愛の論理学』(角川新書)、『東大生の論理』(ちくま新書)、『小林秀雄の哲学』(朝日新書)、『哲学ディベート』(NHKブックス)、『ノイマン・ゲーデル・チューリング』(筑摩選書)、『科学哲学のすすめ』(丸善)など。情報文化研究所所長、JAPAN SKEPTICS副会長。
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