なぜデータはウソをつくのか?
高橋昌一郎『<デマに流されないために> 哲学者が選ぶ「思考力を鍛える」新書!』

現代の高度情報化社会においては、あらゆる情報がネットやメディアに氾濫し、多くの個人が「情報に流されて自己を見失う」危機に直面している。デマやフェイクニュースに流されずに本質を見極めるためには、どうすればよいのか。そこで「自分で考える」ために大いに役立つのが、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」である。本連載では、哲学者・高橋昌一郎が、「思考力を鍛える」新書を選び抜いて紹介し解説する。

 

なぜデータはウソをつくのか?

 

谷岡一郎『データはウソをつく』(ちくまプリマー新書)2007年

 

連載第12回で紹介した『論理思考の鍛え方』に続けて読んでいただきたいのが、『データはウソをつく――科学的な社会調査の方法』である。本書をご覧になれば、そもそも社会調査におけるデータとは何か、どのようにデータを分析すればよいのか、そしてマスコミ報道のデータの扱いによっていかに勝手に世論が誘導されているか、明らかになってくるだろう。

 

著者の谷岡一郎氏は、1956年生まれ。慶応義塾大学法学部卒業後、南カリフォルニア大学大学院社会学研究科博士課程修了。現在は大阪商業大学総合経営学部教授。専門は社会調査方法論。とくにリサーチ・リテラシーやギャンブルに関する研究で知られ、『ギャンブルフィーヴァー』(中公新書)や『ツキの法則』(PHP新書)など著書・論文も多い。

 

谷岡氏は、2000年に『「社会調査のウソ」――リサーチ・リテラシーのすすめ』(文春新書)を上梓した。その要旨は、(1) 世の中のいわゆる社会調査は過半数がゴミである、(2) 始末が悪いことに、ゴミは(引用されたり参考にされたりして)新たなゴミを生み、さらに増殖を続ける、(3) ゴミが作られる理由はいろいろあり、調査のすべてのプロセスにわたる、(4) ゴミを作らないための正しい方法論を学ぶ、(5) ゴミを見分ける方法(リサーチ・リテラシー)を学ぶというものである。官公庁やメディアのアンケートなどに登場する「ゴミ」を具体的に例示しながら、どのように「ゴミ」を見極めればよいのかを明示した名著である。

 

本書は、その「延長線」として、「ではどうするべきなのかを中心に、若い人々にもわかりやすく解説してもらえませんか」と依頼されて書き上げたという内容で、各章に漫画家いしいひさいち氏の4コマ漫画が加えられているという楽しい構成になっている。

 

さて、2001年8月、自衛隊をイラクに派遣するか否かが国会で大問題になっていた際、NHKが実施したアンケートには「1. 派遣すべきだ。2. 安全確保のため慎重に準備をしてから派遣すべきだ。3. 派遣すべきではない」という3つの選択肢があった。その結果、「3. 派遣すべきではない」が多数だったというニュースが流れた。

 

谷岡氏は、この調査自体が「誘導的」だと分析しているが、カラクリがおわかりだろうか。

 

そもそも調査アンケートを作成する際に守らなければならない基本ルールは、(1) 調査目的に従って必要最小限であること、(2) わかりやすい(論理的である)こと、(3) 重ならない(相互に排他的である)こと、(4) 全部の選択肢で全体をカバーしていることである。

 

ところが、NHKのアンケートの選択肢は、このルールに完全に違反していることがおわかりになるだろう。派遣に賛成の人の意見は「1」と「2」に重なっている(相互に排他的でない)し、意見がない(わからない)人は、どれも選びようがない(全体をカバーしていない)。

 

このアンケートには、コマーシャルなどによく登場する「フォースト・チョイス(forced choice)」と呼ばれるテクニックが用いられている。アメリカでスポーツ後に飲みたい飲料を調査したところ、「アップルタイザー」が1位だった! 実は、この調査では、1位になりそうな飲料を「コカ・コーラ」と「ペプシ・コーラ」に分けて、人気を分散させたのである。

 

つまり、当時のNHKは「3. 派遣すべきではない」が多数になるように社会調査を仕組んだと考えられるわけである。最近の「政府の意向に忖度する」と批判されるNHKに比べれば、むしろ「気概」があったのかもしれないが、いずれにしても「公平」な調査報道とはいえない。

 

ある法案に対して賛否がちょうど半数で分かれていたとする。ところが、ニュースの見出しが「50%が賛成」なのか「50%が反対」なのかで、受ける印象はまったく異なる。「学生の面倒はよく見るが、講義内容はあまりよくない先生」と、「講義内容はあまりよくないが、学生の面倒はよく見る先生」と、文の前後を逆にして尋ねるだけで、調査結果そのものが変化する。

 

この本で言いたかったことは、たくさんあります。中でも、世の中に氾濫する怪しげな数字に対する注意は、何度でもすべきだと思います。専門家が正しく扱ってもデータとは不安定なもので、ましてやヘタに扱うと、数字は妖怪のように化けるものなのです。数字は有力な補強材ではありますが、決して過信しないこと。それだけに頼らないこと。そして常に疑うことです。(P.163)

 

社会科学における「データ」とは何か、マスコミに登場する多種多彩な「データ」に翻弄されないためにはどうすればよいのか、そして現代人に必要不可欠な「リサーチ・リテラシー」を理解するためにも、『データはウソをつく』は必読である!

<デマに流されないために> 哲学者が選ぶ「思考力を鍛える」新書!

高橋昌一郎(たかはし・しょういちろう)

國學院大學教授。専門は論理学・哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『ゲーデルの哲学』(講談社現代新書)、『反オカルト論』(光文社新書)、『愛の論理学』(角川新書)、『東大生の論理』(ちくま新書)、『小林秀雄の哲学』(朝日新書)、『哲学ディベート』(NHKブックス)、『ノイマン・ゲーデル・チューリング』(筑摩選書)、『科学哲学のすすめ』(丸善)など。情報文化研究所所長、JAPAN SKEPTICS副会長。
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