2045年に何が起こるのか?
高橋昌一郎『<デマに流されないために> 哲学者が選ぶ「思考力を鍛える」新書!』

bw_manami

2019/09/01

現代の高度情報化社会においては、あらゆる情報がネットやメディアに氾濫し、多くの個人が「情報に流されて自己を見失う」危機に直面している。デマやフェイクニュースに惑わされずに本質を見極めるためには、どうすればよいのか。そこで「自分で考える」ために大いに役立つのが、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」である。本連載では、哲学者・高橋昌一郎が、「思考力を鍛える」新書を選び抜いて紹介し解説する。

 

2045年に何が起こるのか?

 

松田卓也『2045年問題』(廣済堂新書)2013年

 

連載第24回で紹介した『「健康食品」ウソ・ホント』に続けて読んでいただきたいのが、『2045年問題ーーコンピュータが人類を超える日』である。本書をご覧になれば、いわゆる「2045問題」とは何なのか、コンピュータが人類を超える日は来るのか、未来の人類にはどのような選択があるのか、明らかになってくるだろう。

 

著者の松田卓也氏は、1943年生まれ。京都大学理学部物理学科卒業後、同大学大学院理学研究科博士課程修了。京都大学助教授を経て、神戸大学教授。現在は神戸大学名誉教授。専門は宇宙物理学・流体力学。NPO法人あいんしゅたいん副理事長、JAPAN SKEPTICS会長。疑似科学に対する批判的研究でも知られ、『これからの宇宙論』(講談社ブルーバックス)や『間違いだらけの物理学』(学研)など著書も多い。

 

1991年、ヒトのすべての遺伝情報である「ヒトゲノム」の30億を超える塩基配列を解読する国際協力作業が始まった。しかし、7年が経過した1998年になっても、解読されたのは1パーセントに過ぎなかった。そのため、多くの遺伝子学者が「このままでは作業終了までに700年かかる」と落胆していた。

 

ところが、人工知能研究の第一人者として知られる発明家レイ・カーツワイルは、「1パーセント終わったということは、ほとんど作業は終了したと言ってもいいだろう」と述べて、人々を驚かせた。彼は「解読作業は毎年、指数関数的に速くなるから、2年目には2パーセント、3年目には4パーセント、4年目には8パーセントと進む。だから、あと7年もすれば解析は終わるはずだ」と予測した。そして実際に2003年、カーツワイルの予測よりも早く、「ヒトゲノム解読完了宣言」が出された。

 

カーツワイルの主張は、「収穫加速の法則」に基づいている。ある重要な発明が行われると、それは他の発明と結び付き、次の重要な発明の登場までの時間を短縮させる。したがって、科学技術が指数関数的に進歩すると、収穫までの時間も指数関数的に速くなるというわけである。

 

そこからカーツワイルは「21世紀には2万年分の進歩が生じる」と予測している。このまま科学技術が指数関数的に進歩すると、ある時点で限りなく「無限」に接近することになる。この「技術的特異点」は「シンギュラリティ」と呼ばれる。

 

なぜ「2045年」が問題になるのか。その頃に千ドル程度で販売されるコンピュータの演算能力が、人間の脳の百億倍になると想定されているからである。つまり、10万円程度のコンピュータが、全人類百億人の計算能力に匹敵する能力を持つことになる。カーツワイルは、2045年にシンギュラリティに到達すると予測しているのである。

 

そうなると、人工知能は、もはや人間には理解できない思考回路で相互通信を開始し、自らのプログラムを書き換えて改善しながら増殖し、科学技術の進歩は、人類ではなく機械に制御されるようになる。いわば「超越的知性」が出現する。

 

生命進化の過程を機械に組み込む「遺伝的アルゴリズム」の先駆的研究で知られるヒューゴ・デ・ガリスによれば、今世紀中に、人工知能の能力はヒトの1兆倍の1兆倍(10の24乗倍)になるという。こうなると、「超越的知性」というよりは、もはや「神に近い機械」(Godlike machine)ということになる。

 

未来の人間はどうなるのだろうか。カーツワイルによれば、2045年には人間の記憶や思考、すなわち「意識」をコンピュータに「マインド・アップロード」できるようになる。「肉体」は動かずとも「精神」は世界とネットで繋がる。松田氏は、このような未来像に基づくライフスタイルを「明るい寝たきり生活」と呼んでいる。

 

“人工知能の進歩は、国家を超えて人類の運命を左右する極めて重大な問題だと私は思います。しかし、日本人はそのことをぜんぜんわかっていません。当面の目先の心配しかしていません。しかもこの危機は、100年、200年先の話ではなく、デ・ガリスによれば今世紀中、カーツワイルによればあと30年先のことなのです。いまの若い世代がまだ生きている間に、人工知能が人類の運命を大きく左右する存在になる可能性があるのです。(P.215)

 

コンピュータの「進化」はどこまでいくのか、未来社会における人間とコンピュータの共存の意味を理解するためにも、『2045年問題』は必読である!

<デマに流されないために> 哲学者が選ぶ「思考力を鍛える」新書!

高橋昌一郎(たかはし・しょういちろう)

國學院大學教授。専門は論理学・哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『ゲーデルの哲学』(講談社現代新書)、『反オカルト論』(光文社新書)、『愛の論理学』(角川新書)、『東大生の論理』(ちくま新書)、『小林秀雄の哲学』(朝日新書)、『哲学ディベート』(NHKブックス)、『ノイマン・ゲーデル・チューリング』(筑摩選書)、『科学哲学のすすめ』(丸善)など。情報文化研究所所長、JAPAN SKEPTICS副会長。
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