レジェンド・中尾隆聖が語る ホントにあった スゴい現場(#1)著:大野裕之
大野裕之『創声記-日本を話芸で支える声優たち-』

脚本家・映画研究家の大野裕之さんと声優・羽佐間道夫さんが、スターたちの肉声から「声優」の歴史に迫っていく「創声記」インタビュー。4人目は『アンパンマン』のばいきんまん役、『ドラゴンボール』のフリーザ役など、国民的人気の悪役キャラを長く演じ続けていらっしゃる中尾隆聖さんです。羽佐間さんと中尾さんのお付き合いは古く、インタビューは終始盛り上がりっぱなし! その様子を全4回でご紹介します。第1回は、レジェンド2人による、今では考えらないテレビ黎明期の現場ウラ話を、お楽しみください。

 

 

芸事は赤ちゃんのときから

 

――中尾さんは、最初は児童劇団に所属されたんですよね?

 

中尾 劇団ひまわりです。三歳の時に祖父母に連れていかれました。当時のことはあんまり覚えてないですね。

 

羽佐間 僕は覚えてるの。おじいちゃんが手を引っ張って来て、文化放送ラジオのレギュラーに来てたよね。

 

中尾 それは、小学校へ上がった頃ですね。その頃は、四谷にあったプレイヤーズセンター(その後の俳協)に行ってました。学校終わったら、部活じゃないですけど、そのままじいちゃんに連れられて、ラジオ局へ行って本読みやって、次の日は本番を録ってといった感じでしたね。

 

羽佐間 だから、この人は私より古いんですよ。

 

中尾 いやいや、そんなことはないでしょう(笑)。

 

羽佐間 芸事はもう、ほとんど赤ちゃんのときからやってる。

 

中尾 それはそうですね。赤ちゃんからですね。

 

羽佐間 僕らがアテレコを始めたのは、記憶的には一九五六年以降なんだけど。

 

中尾 私が五一年生まれですから、ちょうど五歳ぐらいですね。文化放送のレギュラーをいただきました。

 

――デビューがラジオドラマ『フクちゃん』ですね。

 

中尾 フクちゃんの友達のキヨちゃん役です。

 

羽佐間 フクちゃんって誰だったの?

 

中尾 平林義典君という方が確かやっていました。その番組は、僕が小学校五年生ぐらいの時まで5・6年やりましたね。そこから、NHKのラジオドラマとか、学校放送、テレビの仕事をやらせていただくようになりました。

 

羽佐間 テレビ局にまだ録音する機材がない頃だね。

 

30分ドラマも生放送だった

 

――じゃあ、初期のテレビは生放送?

 

羽佐間 全部生。Aスタジオでシーン1を演じて生放送して、それをパッと切り替えるとスタジオBになってシーン2を生放送する。

 

中尾 そう、スタジオを分けて。

 

羽佐間 だから、『事件記者』だと、こっちのスタジオに記者室があって、向こうのセットには死体がある。それぞれにカメラがセットされていて、それをスイッチャーがつなげていくわけ。

 

中尾 ほんとに三〇分完パケだったんで、女優さんたちがスタジオの隅で衣装替えしながら、セットに入ってましたもんね。カメラ割りで、ツーショットを撮るシーンだと、最初、ワンショットにしているうちに横でもう一人スタンバイする。で、次のカットでカメラが引く、みたいなね。生ドラマのときは、そんなカット割りを駆使しながら、小さなスタジオの中で、こっちで殺人事件があって、あっちで別のシーンがあって…そんな風に、全部生で三〇分やりきってた。

 

――生の舞台より大変ですよねえ。

 

中尾 いや、もう大変だったと思いますね。

 

拳銃を忘れた警官役が素手で「バーン!」

 

羽佐間 段取りが大変。よくあれを毎週やっていたな。

 

――トラブルはなかったんですか。

 

羽佐間 いっぱいある。段取りを間違えて、死んだはずの奴なのに、まだ生きてるとか(笑)。

 

中尾 一番有名なのは、日本テレビの、『ダイヤル110番』という生の番組での出来事ですね。いまは有名になった方がお巡りさん役で、最後に「待てっ!」と言ったのはいいんだけど、小道具の拳銃忘れて、仕方ないから手で撃って、バーンって自分で言った話(笑)。

 

羽佐間 オダさんっておじいちゃん俳優がいたんだけどさ。生ドラマで、並び大名の一人で出てたの。で、殿が来ると一つずつ殿の方に動くんだけど、その人もう年寄りでオシッコしちゃうんだよ。で、その場所に次に座らなければならない大名が、オシッコ踏まないように中腰で立ってたら、「殿の前で無礼だぞ」って怒られて(笑)。

 

――それは、テレビのせいではなくて、その人がおかしいんじゃないですか(笑)。

 

中尾 ガラスが見えなくて、生でバリーンと突っ込んじゃったりとかね。

 

羽佐間 それを拾って本にしたら面白いですよ(笑)。

 

中尾 でも、テレビもすぐにVTRが普及してきて、その頃に洋画の吹き替えもやるようになりました。

創声記_小林清志編

著:大野裕之 監修:羽佐間道夫

【大野裕之】

脚本家・日本チャップリン協会会長

チャップリン家の信頼もあつく、国内外のチャップリン公式版Blu-rayを監修。羽佐間道夫氏発案の「声優口演ライブ」の台本を担当する。著書『チャップリンとヒトラー』(岩波書店)で2015年第37回サントリー学芸賞受賞。映画脚本家としては、2014年『太秦ライムライト』で第18回ファンタジア国際映画祭最優秀作品賞受賞。


【羽佐間道夫】

1933年生。舞台芸術学院卒。劇団中芸を経て、『ホパロング・キャシディ』で声優デビュー。以来、声優の草分けの一人として数多くの名演を披露。代表作に、シルヴェスター・スタローンを吹き替えた『ロッキー』シリーズほか、チャールズ・チャップリンの『ライムライト』、ディーン・マーティン、ポール・ニューマン、ピーター・セラーズ、アル・パチーノの吹き替えなど多数。2008年、第2回声優アワード功労賞受賞。


写真= 大場千里/光文社

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