レジェンド・中尾隆聖が語る ホントにあった スゴい現場(#1)著:大野裕之
大野裕之『創声記-日本を話芸で支える声優たち-』

 

吹き替えもワンロールを一気に録音 ラストでとちると…

 

中尾 最初に吹き替えをやったのは小学校五年ぐらいで、レギュラーをもらったのは中学一年ぐらいでした。東京オリンピックの頃ですかね。当時東北新社がまだ田村町にあった頃です。

 

――その最初のレギュラー作品は?

 

中尾 『わが家はいっぱい』。

 

羽佐間 塩見竜介が出てた。

 

――そのときは一三歳ぐらいですよね。

 

中尾 そうです。それが初めての洋画のレギュラーでした。

 

――吹き替えも、ごく初期は生放送だったと聞いています。

 

中尾 生はさすがにやらせてもらえなかったです。だいたい大人の人が子どもの声をやっていましたからね。

 

羽佐間 子どもは途中で「おしっこ」なんて言うから。それを入れちゃうとまずいんで(笑)。

 

中尾 でも、まだワンロールを一気に録音する時代でした。だから一二~三分は完パケでしゃべらなきゃいけない。一三分で終わるのを一二分半でとちったら、もう一回頭っからやり直し。僕も先輩の前で、長いロールの一番最後のひと言でとちって、震えたことありますよね。

 

――当時は、そこだけを録り直すことができないんですね。

 

中尾 そうなんです。

 

――一三分間のワンロール、ミスしちゃいけないというのは、ほとんど生みたいなものでしょう。

 

中尾 いや、本当の生はもっと大変ですよね。スタジオの奥でオシッコしちゃった人がいたり(笑)。

 

羽佐間 その間はクシャミもしちゃいけないし、笑ってもいけないわけだけど、出物腫れ物でさ、向こうのほうでクシャミを我慢して七転八倒してる奴がいたり。

 

中尾 楽しい時代でしたね。

 

映像と音を「せーのっ」で揃えて

 

羽佐間 音声は全部六ミリのテープでしたね。六ミリは三分しかシンクロしないんだよね。だから映像のロールを切っちゃって、三分ずつにする。三分以上やるとずれてきちゃう。

 

中尾 よくありましたもんね。テレビ放送で「しばらくお待ちください」って。声が合わなくなってきちゃうんです。あの時代は、楽しかったですよ。映像ではドアが閉まってるのに、閉まる音はあとから入ってきたり。男がしゃべってるのに女がしゃべったりして(笑)。

 

――放送のときにずれてくるんですね。

 

中尾 当時、映像と音を放送する機械が別々で、「せーのっ」で回していたんでしょ?

 

羽佐間 両側にそれぞれ音と映像のマシンがあってね。人が真ん中に入っていて。それで「ヨーイドン!」で回す。ところが、電圧の関係で回転スピードが違ってきてずれちゃうんだよ(笑)。それを途中で調整するから、急に音声だけ早回しの音になったりする。

 

その頃はフィルムだからさ。天井に匍匐前進してる人がいて、フィルムが絡まらないようにしてた。その人たちの話も面白いと思う。そこでずーっと、三〇分、息もせずにいたんだから(笑)。息ぐらいはしたか(笑)。

 

中尾 でも、すごい早かったですよね、その技術が進化していくのが。

 

羽佐間 そうね。ほんと一年ごとに、ガラッと変わっていっちゃった。その後、フィルムを大きな映画館みたいな画面の前で、マイクを立てて録音するというふうになりました。

 

中尾 ラジオドラマも、スタジオで効果音やってましたね。

 

――それで独特の技術が生まれたんでしょうね。

 

中尾 私らのときは、だから、それを逆に面白がって、生でわざとやろうとかいうときだったんですよね。

 

羽佐間 話が合うでしょ。芸歴が同じだからさあ。

 

中尾 何言ってるんですか、ほんとに(笑)。

 

(第2回に続きます!)

 

中尾隆聖(なかお・りゅうせい)
2月5日生まれ。東京都出身。主な出演作に『それいけ!アンパンマン』のばいきんまん、『ドラゴンボール』シリーズのフリーザ、『ONE PIECE』のシーザー・クラウンなど。

創声記_小林清志編

著:大野裕之 監修:羽佐間道夫

【大野裕之】

脚本家・日本チャップリン協会会長

チャップリン家の信頼もあつく、国内外のチャップリン公式版Blu-rayを監修。羽佐間道夫氏発案の「声優口演ライブ」の台本を担当する。著書『チャップリンとヒトラー』(岩波書店)で2015年第37回サントリー学芸賞受賞。映画脚本家としては、2014年『太秦ライムライト』で第18回ファンタジア国際映画祭最優秀作品賞受賞。


【羽佐間道夫】

1933年生。舞台芸術学院卒。劇団中芸を経て、『ホパロング・キャシディ』で声優デビュー。以来、声優の草分けの一人として数多くの名演を披露。代表作に、シルヴェスター・スタローンを吹き替えた『ロッキー』シリーズほか、チャールズ・チャップリンの『ライムライト』、ディーン・マーティン、ポール・ニューマン、ピーター・セラーズ、アル・パチーノの吹き替えなど多数。2008年、第2回声優アワード功労賞受賞。


写真= 大場千里/光文社

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