ばいきんまん声優・中尾隆聖が語る 愛される悪役の“声”の秘密(#3)著:大野裕之
大野裕之『創声記-日本を話芸で支える声優たち-』

bw_manami

2019/07/29

 

苦肉の策で声をつぶしたら「ばいきんまん」に

 

――アニメのお役でもたくさんの当たり役がありますね。

 

中尾 いや、たまたま長くやらせていただいた番組に当たったんで、こうしてやらせていただいていますけれども、最初からそんなふうになると思っていませんから。

 

――たとえば、ばいきんまんは。

 

中尾 あれも苦肉の策で出来た声ですね。八八年に始まったんですけど、その当時、八一年からNHKの『おかあさんといっしょ』という子ども番組で、「ぽろり」という役を8年ぐらいしてたんです。で、オーディションを受けたときに聞いたら、視聴者層も曜日もどんかぶりだったんですね。だから、同じ声は絶対使えないと思って、たまたまあんな声を作って、オーディションを受けたら、「ああ、面白いですね。もっとつぶしてください」って言われて(笑)。それで、受かっちゃったんです。

 

――そうすると、そのつぶしたお声でいま31年ぐらい。

 

中尾 半年ぐらいで終わるかなと思ってたら、もう31年ですからね。ずいぶん慣れてはきましたけど。最初はもう、『アンパンマン』をやると、その日は何も仕事にならないぐらい喉を潰しました。次の日は朝から、今度はNHKのぽろりの録りがあったんで、それまでに治しておかなきゃいけない。

 

羽佐間 あなた、もう、浪花節しか使えないよ。

 

中尾 そう、浪花節とか、昔で言えば、バナナの叩き売りみたいな声ですよね。

 

菌、宇宙人……人間はあんまりやっていない(笑)

 

羽佐間 ちょっとない、ユニークな声なんだよね。隆聖の声はほんとに、ちょっとしびれるというか。人間じゃないんだね(笑)。

 

中尾 人間はあんまりやってないもんですからねえ。宇宙人はやってますけど(笑)。

 

羽佐間 ばいきんまんは何なの?

 

中尾 あれはばい菌ですね(笑)。

 

羽佐間 菌か。

 

中尾 アンパンマンという主役から見て、反対のものですよね。アンパンマンは正義の味方で、ばいきんまんは敵です。でも、アンパンマンの世界には、ばいきんまんがいないとダメなんです。アンパンのなかにも菌は入ってるわけですよ。たぶん、やなせ先生のお考えにはそういうものがきっとあるんじゃないかと思っています。
 オーディションのときにやなせ先生に、「君がやらなかったら私がやろうと思っていたんだ」と言われて、えっ、そうなんですかとかって言った思い出があります(笑)。

 

――それだけ大事なお役なんですね。

 

きついことを言っても、嫌悪感を持たれない工夫を

 

中尾 でも、いまオーディションをしてたら、山寺(宏一)が受かってる(笑)。でも、戸田恵子さんが言ってるんですよ、天下の山寺をイヌで使ってるのはうちの番組だけだよって(笑)。

 

羽佐間 山寺は動物の声も好きだから。

 

中尾 耳がいいですから。ほんと、天才的ですよね。

 

――ばいきんまんって悪役っぽいですけど、すごい発明もできるような…。

 

中尾 そう。頭はいいんですよ。

 

――あの憎みきれないキャラクターをどう作られたのでしょうか。

 

中尾 ちっちゃい子に嫌がられたり、怖がられたりするのはいやですよね。悪役は悪役でいいけど。どんなきついことを言っても、嫌悪感だけは持たれないように言い方を工夫しました。
 まあ、でも、いわばパシリですからね、ドキンちゃんの(笑)。「食べたーい。何かもってこーい」と言われちゃうほうですからね(笑)。そういうところがたぶん、ちっちゃい子たちに面白がられてるのかもしれないですね。

 

(第4回に続きます!)

 

中尾隆聖(なかお・りゅうせい)
2月5日生まれ。東京都出身。主な出演作に『それいけ!アンパンマン』のばいきんまん、『ドラゴンボール』シリーズのフリーザ、『ONE PIECE』のシーザー・クラウンなど。

創声記_小林清志編

著:大野裕之 監修:羽佐間道夫

【大野裕之】

脚本家・日本チャップリン協会会長

チャップリン家の信頼もあつく、国内外のチャップリン公式版Blu-rayを監修。羽佐間道夫氏発案の「声優口演ライブ」の台本を担当する。著書『チャップリンとヒトラー』(岩波書店)で2015年第37回サントリー学芸賞受賞。映画脚本家としては、2014年『太秦ライムライト』で第18回ファンタジア国際映画祭最優秀作品賞受賞。


【羽佐間道夫】

1933年生。舞台芸術学院卒。劇団中芸を経て、『ホパロング・キャシディ』で声優デビュー。以来、声優の草分けの一人として数多くの名演を披露。代表作に、シルヴェスター・スタローンを吹き替えた『ロッキー』シリーズほか、チャールズ・チャップリンの『ライムライト』、ディーン・マーティン、ポール・ニューマン、ピーター・セラーズ、アル・パチーノの吹き替えなど多数。2008年、第2回声優アワード功労賞受賞。


写真= 大場千里/光文社

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