ばいきんまん役で31年、フリーザ役で30年! 中尾隆聖の「役作り」(#4)著:大野裕之
大野裕之『創声記-日本を話芸で支える声優たち-』

bw_manami

2019/08/05

脚本家・映画研究家の大野裕之さんと声優・羽佐間道夫さんが、スターたちの肉声から「声優」の歴史に迫っていく「創声記」インタビュー。全4回にわたる中尾隆聖さんへのインタビューも今回が最後。最終回では、長く愛されるキャラクターを多数生み出した中尾流の「役作り」について、詳しくお伺いしました。

 

 

フリーザ役で30年

 

――もう一つ、われわれがすぐに思い浮かべるのは、『ドラゴンボール』のフリーザというお役があります。

 

中尾 これも八八年ぐらいからですね。飛び飛びでずっと三〇年近くやらせていただいています。しかも、僕がアニメのデビューをした時にご一緒させていただいた野沢雅子さんとまた一緒なんです。五〇年経っても一緒にできるというのがすごくうれしいんですよね。

 

――すごいことですねえ、五〇年って。

 

中尾 全然変わんないですからね、マコさんは、昔っから。すごいなあと思いますけどね。

 

――ばいきんまんもフリーザも、中尾さんの代表作とされるお役は、二つとも印象的な悪役ですね。

 

中尾 ありがたいことに、そう言っていただけるキャラに出会えたのはうれしいことです。仕事をいただいたときには、それをただ全力でやっていくだけです。それがたまたま自分のキャラクターになっていくというだけでしょうかね。

 

声は作らないほうがいい

 

――「自分のキャラクターになっていく」とおっしゃいましたが、それはどんな作業でしょうか? 声優の「役作り」についてお考えをお聞かせくださいますか?

 

中尾 基本的に「声を作る」ってのはあんまり好きじゃありません。声優さんでもいろんな方がいらっしゃいますよね。いろんな声を駆使して使い分ける方もいらっしゃいますし、逆に一つの声で、キャラクターを変えてという方もいらっしゃいます。いろんなパターンがありますが、私は後輩たちには、「声は作らないほうがいいよ」と言ってます。まあ、ばいきんまんであんな声を作っているんで、あんまり説得力ないですけどね(笑)。

 

――役の性根をつかんで、そこから自然と出てくる声がいい、と?

 

中尾 そういうのが一番理想ですね。

 

――声からキャラクターを作るんじゃなくて?

 

中尾 いや、声で作るのもいいんですけど。若いうちって、(いまの私もそうですけど)、声を作ったことで何かをやった気になっちゃったりするじゃないですか。それがちょっといやなんです。そこで止まっちゃうような気がするんですよね。そうじゃないというのがやっとわかってきた気がします。

 

若い世代は、型にはまらずに

 

――今のは若い声優へのメッセージにも聞こえますが、改めて、いま若い声優たちに望むことみたいなことはありますでしょうか。

 

中尾 いまは仕事もどんどん変わってきていますよね。アニメやアテレコだけではなくて、それこそインターネットであるとか、仕事内容がどんどん違ってきている。独自にいろんなことが発信できる、いい時代ですよね。やりたいことをできる世の中なので、自分からいろんなことを発信すればいいと思います。昔だと、そんな役者なんてやめたほうがいいよとかって、よく頭ごなしに言われましたけど、いまはなんでもやってみてほしい。それでダメだったら、また考えればいい。そのぐらい楽な気持ちだと、型にはまらずにいろんなことができる。
 ただ、確実にやっぱり、今の人たちが継いでいかなきゃいけないものがいっぱいあるわけですよね。

 

――それは何でしょうか。

 

中尾 何ですかねえ。

 

羽佐間 隆聖は、若い子を育ててるから、いま。だから、そういう目で見られるんだよね。やっぱり、ラジオ文化から映像文化になっちゃってから、想像力が失われた気がする。

 

中尾 確かに。

 

羽佐間 やっぱりものを頭で描いていくことが大切だし、そのためには本を読まないと。でも、いまの人たちはあんまり本を読まないし。音楽を聴いて、ラジオを聴いて、ドラマを聴いて、考える作業はいつの時代でも重要なこと。自分の懐を広くとって、そこにいっぱい知識を埋め込まないと、人に感動を与えることはできないと感じます。
 うまいなあと思う役者の伝記を読んでると、みんなそうだよね。歌でも、浪花節でも、講談でも、落語でも、名人がいて、それを聴きに行って吸収してた。

創声記_小林清志編

著:大野裕之 監修:羽佐間道夫

【大野裕之】

脚本家・日本チャップリン協会会長

チャップリン家の信頼もあつく、国内外のチャップリン公式版Blu-rayを監修。羽佐間道夫氏発案の「声優口演ライブ」の台本を担当する。著書『チャップリンとヒトラー』(岩波書店)で2015年第37回サントリー学芸賞受賞。映画脚本家としては、2014年『太秦ライムライト』で第18回ファンタジア国際映画祭最優秀作品賞受賞。


【羽佐間道夫】

1933年生。舞台芸術学院卒。劇団中芸を経て、『ホパロング・キャシディ』で声優デビュー。以来、声優の草分けの一人として数多くの名演を披露。代表作に、シルヴェスター・スタローンを吹き替えた『ロッキー』シリーズほか、チャールズ・チャップリンの『ライムライト』、ディーン・マーティン、ポール・ニューマン、ピーター・セラーズ、アル・パチーノの吹き替えなど多数。2008年、第2回声優アワード功労賞受賞。


写真= 大場千里/光文社

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