ばいきんまん役で31年、フリーザ役で30年! 中尾隆聖の「役作り」(#4)著:大野裕之
大野裕之『創声記-日本を話芸で支える声優たち-』

bw_manami

2019/08/05

 

音楽も芝居も、ブレス(息)がすべて

 

――羽佐間さんは、落語や浄瑠璃など声優以外のジャンルの芸からすごく刺激を受けて、それが血となり肉となり、声優の芸への刺激になったとのことですが、中尾さんは?

 

中尾 やっぱり、私は歌が好きなので、音楽に影響を受けていますね。それこそ上手な人とかいい音楽がたくさん周りにやってる人が多かった。亡くなっちゃいましたけど、尾崎紀世彦なんかは、売れる前から「こいつうまいなあ」と思って聴いてました。それから、日野皓正さんの弟の日野元彦さんというドラマーと知り合いになって、その方もがんで亡くなっちゃったんですけど、その最後のステージをみましたね。
 名前もないけど、うまい人がたくさんいるでしょ。そういうのが素敵ですよね。スターじゃないけど、ここにこんなうまい奴がいるよって知ってるのがうれしいんですよねえ(笑)。お前ら、知らないだろ。あいつのうまさを知らないだろというのが、優越感だったんですよ。若い頃は生意気だったんで。音楽からの影響は、芝居に直結しています。
 そんな感じで、自分の芝居も全部現場で学んだものですね。81プロデュース(※編集部注:中尾隆聖さんの所属事務所)に所属してから、若い人にも教えてくれと言われてから勉強するようになったんです。

 

――教え方を。

 

中尾 そうです。だから、後になって芝居の本を読み漁りましたよね。でも、本に難しく書いてあるけど、自分でやってきたことと同じだろうな、と思える部分がたくさんあります。そんなわけで、自分流にやってきたことを若い人たちと一緒に勉強し直してます(笑)。

 

――芝居では息が大事だとおっしゃいましたが、音楽こそそうですもんね。

 

中尾 やっぱりブレスがすべてだと思います。業界用語で、ブレス合わせってよく言うんですけど、最初は行間合わせだと思ってました。でも、そうじゃないんです。「息を合わせろ」ってことなんだというのが、この年になってわかってきました。

 

中尾隆聖、これからの野望とは…!?

 

――「この年になって」とおっしゃいましたけれども、これからやってみたいこと、いまの野望を教えてください。

 

中尾 若い頃は、とにかくうまくなりたかった。最初は、「バカ」、「死ね」、「帰れ!」とか言われてました。それをバネにして、うまくなりたいとしか思わなかったです。
 いまの人たちは、先輩たちにも、ディレクターさんにも、「違う」と言ってもらえない。間違ってても、「うん、それもあるよね」という言い方をされる。となると、一〇通りぐらいの答えがあるような中から見つけださなきゃいけないという、逆の大変さがあるわけです。
 でも、昔は「ヘタクソ!」と言われると、「あ、ヘタなんだ。うまくなればいいんだ」と。ちゃんと答えをくれたので、簡単だった。「ヘタクソ!」と言われたときは一番うれしかったですよ。だって、その前までは「帰れ!」とか、「いるな!」とかさ、そんなことしか言われてないわけだから(笑)。「ヘタクソ!」と言われたときは、あっ、見てくれてたんだ、と(笑)。
 じゃあ、今度は「うまい!」と言わせるようになればいいだけなんで。そんな簡単な考え方でした。だから、二〇歳になると、早く三〇になりたいなと、三〇になればあの役者さんみたいな芝居ができるはずだ、あの歌もうまく歌えるかもしれない、と。で、三〇になると、うーん、四〇になれば、きっとあのせりふも言えるようになるかもしれないって。そして、五〇になっても、六〇になればできる、と(笑)。
 でも、六〇を過ぎてくると、ああ、そうか、俺はヘタクソだったんだというのがやっとわかるようになる。ちょっと肩の力が抜けて、それでもここまでやらせてもらえてきたんだ、やってこられたんだという、少しの自負もでてくる。そうするとまた違う楽しみ方が、今までと全然違う楽しみ方ができますよ。だから、これからが楽しみです。

 

――楽しんでるんですね。

 

中尾 はい。あとは、宇宙人やばいきん以外にも、人間の声もできるようになりたいです(笑)。

 

中尾隆聖(なかお・りゅうせい)
2月5日生まれ。東京都出身。主な出演作に『それいけ!アンパンマン』のばいきんまん、『ドラゴンボール』シリーズのフリーザ、『ONE PIECE』のシーザー・クラウンなど。

創声記_小林清志編

著:大野裕之 監修:羽佐間道夫

【大野裕之】

脚本家・日本チャップリン協会会長

チャップリン家の信頼もあつく、国内外のチャップリン公式版Blu-rayを監修。羽佐間道夫氏発案の「声優口演ライブ」の台本を担当する。著書『チャップリンとヒトラー』(岩波書店)で2015年第37回サントリー学芸賞受賞。映画脚本家としては、2014年『太秦ライムライト』で第18回ファンタジア国際映画祭最優秀作品賞受賞。


【羽佐間道夫】

1933年生。舞台芸術学院卒。劇団中芸を経て、『ホパロング・キャシディ』で声優デビュー。以来、声優の草分けの一人として数多くの名演を披露。代表作に、シルヴェスター・スタローンを吹き替えた『ロッキー』シリーズほか、チャールズ・チャップリンの『ライムライト』、ディーン・マーティン、ポール・ニューマン、ピーター・セラーズ、アル・パチーノの吹き替えなど多数。2008年、第2回声優アワード功労賞受賞。


写真= 大場千里/光文社

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