実はお姫様役がやりたい?! レジェンド声優・野沢雅子の密かな野望(#1)著:大野裕之
大野裕之『創声記-日本を話芸で支える声優たち-』

「お婆さんだってすごい役なんだからね」

 

――劇団にお入りになったのは?

 

野沢 高校一年の時に、東芸に入りました。映画界入りさせたかった叔母が諦めてくれて、NHKのプロデューサーを介して入れてくれました。

 

――その時の初舞台は?

 

野沢 鮮明に覚えています。菊田一夫先生の「堕胎医」でした。黒澤明監督が翻案して『静かなる決闘』として映画化した作品です。

 

23歳ぐらいの娘が主役で、私は80歳ぐらいのお手伝いの役でした。やっぱり若い娘の主役がやりたかったんです。でも、その役は旗和子さんという、素晴らしい芝居をする方がなさった。テレビでも賞を貰っていた立派な女優さんです。

 

でも、私は旗さんに、「ちょっと話を聞いてくれますか」と、「旗さんの役は23歳で、私は80歳の、目も見えない婆さんの役です。これは難しいから旗さんがやった方がいいと思います」と言ったんです。

 

―― (笑)

 

野沢 すごく怒られるの覚悟して。そしたら旗さんも、「そうだね、それが当たり前だよね。だけどマコ、よく聞いて。あたしは、この役しかできないんだよ。マコはどっちもできるんだよ。だからマコの方にその婆さん役が行ったんだ。お婆さんだってすごい役なんだからね」。それを尊敬してる大先輩から言われて嬉しくて、「頑張ります」って。公演後は、劇団内で賞をいただいたので、どんな役でも頑張っていこうって思いました(編集注:マコ=野沢さんの愛称)。

 

――いい先輩ですね。

 

羽佐間 東芸は、進藤英太郎、武藤英司とかユニークな人がたくさんいたね。東映の敵役なんかもたくさんいた。

 

野沢 川内康範さんがうちの座付きでした。川内さんの「にしん場」という漁師の話は、切符を買う人の列が読売ホールに三重回りました。

 

羽佐間 東芸からは、外国映画の吹き替えでスター陣が出てきましたね、大塚周夫……。

 

野沢 森山周一郎。

 

羽佐間 富田耕生に熊倉一雄もいたんだよね。

 

 

幸か不幸か、受かったんです。

 

――野沢さんの夢は、演劇の舞台女優だったんですね。

 

野沢 もうずっと舞台女優です。当時、五社協定があってテレビには映画俳優は出られませんでしたから、私はテレビが始まった時から声優をやってるんですよ。当時は、生本番でしたね。

 

最初に、アテレコをやったのは、洋画の吹き替えでした。その作品に少年が出てくるのですが、生本番だし本物の少年は危なっかしい、でも、信頼できる俳優はもう変声期過ぎてる。その時に、プロデューサーが、子供の声には女性の声帯が近いんじゃないかと言い出した。それで各劇団に声がかかって、オーディションがあったんです。

 

私も何のオーディションか知らされずに劇団から行かされました。それで、台本渡されたら少年なんですよ。ふざけないでよ、私は大人の女性なのに少年? すると、幸か不幸か、受かったんです。

 

そのうち、洋画がどんどん増えてきました。とくに、お年寄りは、映画館の字幕スーパーを追えないから、お茶の間でテレビから流れてくる日本語で洋画を見たいから。当時の洋画には、少年がどこかに出てくるんです。たまたま私が合格したもんで、「あの人慣れてるから」ってことで(慣れちゃいないですよ)、お役が回ってくる。そんな風に、私この世界に入って来ました。

 

――そのきっかけとなった作品は何ですか?

 

野沢 劇団の収入源として行ってただけで、当時は興味がなかったので覚えていません。劇団の稽古を休まなければいけないから片身狭いんですよ。でも、劇団のために行くから「行っといで」と先輩言ってくれるんですけどね。

 

(第2回に続きます!)

 

野沢雅子(のざわ・まさこ)
1936年生まれ。主な出演作品に『ドラゴンボール』シリーズの孫悟空、悟飯、悟天、『ど根性ガエル』のひろし、『ゲゲゲの鬼太郎』の鬼太郎、『銀河鉄道999』の星野鉄郎がある。

創声記_野沢雅子編

著:大野裕之 監修:羽佐間道夫

【大野裕之】

脚本家・日本チャップリン協会会長

チャップリン家の信頼もあつく、国内外のチャップリン公式版Blu-rayを監修。羽佐間道夫氏発案の「声優口演ライブ」の台本を担当する。著書『チャップリンとヒトラー』(岩波書店)で2015年第37回サントリー学芸賞受賞。映画脚本家としては、2014年『太秦ライムライト』で第18回ファンタジア国際映画祭最優秀作品賞受賞。


【羽佐間道夫】

1933年生。舞台芸術学院卒。劇団中芸を経て、『ホパロング・キャシディ』で声優デビュー。以来、声優の草分けの一人として数多くの名演を披露。代表作に、シルヴェスター・スタローンを吹き替えた『ロッキー』シリーズほか、チャールズ・チャップリンの『ライムライト』、ディーン・マーティン、ポール・ニューマン、ピーター・セラーズ、アル・パチーノの吹き替えなど多数。2008年、第2回声優アワード功労賞受賞。


写真= 髙橋智英/光文社

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