光る職人技! 乱れ飛ぶアドリブ! 声優・野沢雅子が見た吹き替え現場(#2)著:大野裕之
大野裕之『創声記-日本を話芸で支える声優たち-』

 

乱れ飛ぶアドリブと、音に乗らない喧噪

 

羽佐間 あと、昔は収録中にアドリブでお互いに笑わせようとしてたね。

 

野沢 滝口順平さんは、いつも台本に何か書いてるのを、隠しちゃうんですよ。周りを笑わせるためにアドリブ書いてるんです。

 

羽佐間 収録中に周りのやつは、笑うのを我慢して。

 

野沢 そう。すごいマイペースなんですよ。ある時に、本番中に順平さんは自分の出番が終わったあと、夏ミカンを剥いて食べだした。チュッチュッ、何の音と思って振り返ったら、順平さんが食べてて。

 

―― (笑)

 

野沢 ディレクターが「なんかチュッチュッって音がするんですけど」。順平さんは何も言わずに黙ってる(笑)。

 

羽佐間 スタジオでスルメを焼いたやつもいた。

 

野沢 スタジオでコーヒー湧かしたのは、加藤精三さん。

 

羽佐間 精三はそのコーヒーをみんなに売るんだよ。本番中に。砂糖はスプーンに二杯かってマイムで聞く。

 

―― (笑)

 

羽佐間 酒持って来て、酒飲んでるやつもいた。自分の出番がない時に、二十何分待てねえんだな。小池朝雄なんかカレーライス食いながら、「うちのカミさんがね」ってコロンボやってた(笑)。カレー置いたままマイクのところに行って収録して、カレーの上に座って、尻にカレーつけたまままた収録するから、みんな腹抱えて笑ってんだけど。でもね、スッと決まるんだよな。だから何も言えなくなっちゃう。僕は彼と「フレンチコネクション」やった。

 

野沢 私ゲンさん(若山弦蔵)が、北海道から出て来た時に、キクチのおじいの番組に一緒に出たの。ゲンさんが子分で、ギョブツ(日下武史)が親分の役だったから、ゲンさんの方が親分よりドスきいてる声でね(笑)。
ゲンさんは、すごいおっとりした人で、私と親子役を一緒にやってた時、ゲンさんがコードを引っ掛けちゃって、本番中にレシーバーが抜けちゃったわけよ。急に聞こえなくなっちゃって、ウワーと思ったんだけども、絵に必死になって合わせてたら、ゲンさんがゆったりと私の前を回って、私の真ん前まで来て、マイクの向こうで「すまんかった」ってマイムでポーズを取って、その後戻って来てから、コードを入れたの。「ゲンさん先にコード入れてよ。謝るのはいいから」って。

 

羽佐間 コードを引っ掛ける人多かったね。

 

――ところで、ギョブツってどなたですか。

 

羽佐間 劇団四季の日下武史。慶應時代のニックネームらしいね。

 

野沢 いろんなニックネームがあったね。

 

羽佐間 僕のことをミッキーと呼ぶのは、今はもうマコしかいなくなった。だけど、自分がどこでミッキーになったのかわかんない。ミッキーマウスやってわけじゃないし(笑)。

 

野沢 愛川欽也さんは班長さん的な役目をしてたからハンチョウ。いい意味で、腰が軽いからね。ハンチョウとは、「いなかっぺ大将」でコンビを組んでいたんだけど、彼は顔出し(ドラマ)の方に行きたかったのね。テレビの司会もやりたくて。それでスケジュールがだんだん取れなくなってきて、プロデューサーが困ってしまった。私はハンチョウのニャンコ先生とのコンビが大事だと思って、「私がスケジュール動かしますから」と言ってなんとかしてもらった。その代わり、ハンチョウには「毎回、お菓子だけは買って持ってきてね」と。ハンチョウも、「俺大好きなんだよ、この役」って。

 

羽佐間 コンビは大切だもんね。片方だけが替わったりすると、全然違うものになる。

 

(第3回に続きます!)

 

野沢雅子(のざわ・まさこ)
1936年生まれ。主な出演作品に『ドラゴンボール』シリーズの孫悟空、悟飯、悟天、『ど根性ガエル』のひろし、『ゲゲゲの鬼太郎』の鬼太郎、『銀河鉄道999』の星野鉄郎がある。

創声記_野沢雅子編

著:大野裕之 監修:羽佐間道夫

【大野裕之】

脚本家・日本チャップリン協会会長

チャップリン家の信頼もあつく、国内外のチャップリン公式版Blu-rayを監修。羽佐間道夫氏発案の「声優口演ライブ」の台本を担当する。著書『チャップリンとヒトラー』(岩波書店)で2015年第37回サントリー学芸賞受賞。映画脚本家としては、2014年『太秦ライムライト』で第18回ファンタジア国際映画祭最優秀作品賞受賞。


【羽佐間道夫】

1933年生。舞台芸術学院卒。劇団中芸を経て、『ホパロング・キャシディ』で声優デビュー。以来、声優の草分けの一人として数多くの名演を披露。代表作に、シルヴェスター・スタローンを吹き替えた『ロッキー』シリーズほか、チャールズ・チャップリンの『ライムライト』、ディーン・マーティン、ポール・ニューマン、ピーター・セラーズ、アル・パチーノの吹き替えなど多数。2008年、第2回声優アワード功労賞受賞。


写真= 髙橋智英/光文社

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