レジェンド声優が互いを語る! 野沢雅子と羽佐間道夫(#3)著:大野裕之
大野裕之『創声記-日本を話芸で支える声優たち-』

 

羽佐間道夫が語る野沢雅子、野沢雅子が語る羽佐間道夫

 

羽佐間 夫婦役もやったことあるんだけど、マコの声ジーッと聞いてると、ものすごく女っぽいんだよね。それがすごいセクシーな声で。なんでこの人を女優に使ってないのかな。
チャップリンの声優口演でも、ヒロインのエドナを彼女にやってもらってる。ヒッチコックの無声映画のヒロインなんかもやればいいだろうね。色っぽいんだけど、実は殺人鬼だとかさ。だから小津安二郎監督の『淑女と髭』を声優口演でやったときに、小津さんの一家が見に来てくれて喜んでくれたでしょ。昔の日本女性の役も本当にうまい(編集注:声優口演=羽佐間さんが企画・総合プロデュースを務めるサイレント映画にライブでアテレコするイベント)。

 

野沢 私、声優口演で女の役をできるのが嬉しい。ディレクターの中で、サコンジョウさんだけが、マコーレー・カルキン君をのぞいて、いつでも女性で使ってくれました。

 

――今羽佐間さんが野沢さん論を展開してくださいましたけれども、野沢さんから見た羽佐間さんは、どういう声優さんでしょうか。

 

野沢 ほんとにね、お世辞みたいに聞こえるから、言わなかったんですけど、ミッキーは台詞が本当に自然なんです。普通声優さんは、原音の台詞に合わせるために、時間を調整しながらアテる。合わせるために不自然に伸ばしたりする。でも、ミッキーは絶対自然なんですよ。そこが私好きだったんです、最初から。

 

羽佐間 それしかできない。

 

野沢 そんなことない。素晴らしいんです。原音も向こうの人間がやってるんですから、吹き替えも自然じゃなきゃいけない。

 

――自然体でいることは、ものすごく難しいことですよね。

 

野沢 そうです、ほんとに! 役者だから、どうしたって何か演技をやりたくなっちゃうんですよ。もちろんミッキーも芝居はなさってるんですよ。だけどそれが自然だから、芝居してるふうには見えない。そこが私、昔から大好きなんです。今日初めて言いました。

 

羽佐間 うちに帰って絵日記つけなきゃ。

 

―― (笑)

 

「声優口演」の夢

 

羽佐間 でも僕の自然体とマコちゃんの女優を続けるのは、今は声優口演という場がある。

 

――声優口演は、はじめお二人でなさったんですね。

 

羽佐間 そうそう二人で、長野県でね。

 

野沢 ミカン箱に乗ってね。

 

羽佐間 善光寺のすぐそばで。観客がたくさん来るんだろうなと思って二人で行ったら、客は五人ぐらいでさ。ストトン節やったんだけど、誰も笑ってくれなくて。二人で結局善光寺の薬味買って帰って来た。
でも、やっぱり僕は無声映画をとにかく立体化したいので、マコと山寺とで続けてきた(編集注:山寺=山寺宏一)。

 

野沢 声優口演では自分ではない誰かになれるので嬉しいですね。そのうち、叔母が演じている役に声をつけることができれば。

 

――実現すると素晴らしいですね。日本の無声映画は、弁士が声をつけることを前提として作られることが多かったので、叔母様の映画が野沢さんの声を得て完成するということになります。

 

羽佐間 最近は、僕もマコちゃんもね、外国映画の吹き替えでは高くて使えないって言われるの。

 

野沢 そう言われますよね。

 

羽佐間 全部スケジュール押さえられてもバラしになる。理由を聞くと、計算したら経費がとても合いません。代わりに新人を十人使いますから、と。経済との関係だからやむを得ないけど、それで作品が良くなるかかというと疑問がある。こないだ昔吹き替えた「ミッドナイト・ラン」をまた収録したんです。昔、テレビ放映されたときは25分ぐらいカットされていたから、今度完全版の放送にあわせて収録しなおしたんです。すると、スタジオに昔の連中ばっかり集まってきた。柴田はいるし、富田はいるし、池田勝、宝亀、二又一成がいて、そういうのがズラズラ並んで、近年珍しいスタジオでしたよ(編集注:柴田=柴田秀勝、富田=富田耕生、宝亀=宝亀克寿)。

 

(第4回に続きます!)

 

野沢雅子(のざわ・まさこ)
1936年生まれ。主な出演作品に『ドラゴンボール』シリーズの孫悟空、悟飯、悟天、『ど根性ガエル』のひろし、『ゲゲゲの鬼太郎』の鬼太郎、『銀河鉄道999』の星野鉄郎がある。

創声記_野沢雅子編

著:大野裕之 監修:羽佐間道夫

【大野裕之】

脚本家・日本チャップリン協会会長

チャップリン家の信頼もあつく、国内外のチャップリン公式版Blu-rayを監修。羽佐間道夫氏発案の「声優口演ライブ」の台本を担当する。著書『チャップリンとヒトラー』(岩波書店)で2015年第37回サントリー学芸賞受賞。映画脚本家としては、2014年『太秦ライムライト』で第18回ファンタジア国際映画祭最優秀作品賞受賞。


【羽佐間道夫】

1933年生。舞台芸術学院卒。劇団中芸を経て、『ホパロング・キャシディ』で声優デビュー。以来、声優の草分けの一人として数多くの名演を披露。代表作に、シルヴェスター・スタローンを吹き替えた『ロッキー』シリーズほか、チャールズ・チャップリンの『ライムライト』、ディーン・マーティン、ポール・ニューマン、ピーター・セラーズ、アル・パチーノの吹き替えなど多数。2008年、第2回声優アワード功労賞受賞。


写真= 髙橋智英/光文社

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