ゲゲゲ・999・ドラゴンボール。野沢雅子を語る上で外せない三役(#5)著:大野裕之
大野裕之『創声記-日本を話芸で支える声優たち-』

脚本家・映画研究家の大野裕之さんと声優・羽佐間道夫さんが、スターたちの肉声から「声優」の歴史に迫っていく「創声記」インタビュー。第5回は、野沢さんにご自身の代表作について語っていただきました。野沢さんの長いキャリアの中でも特別に思い入れのあるキャラクターたちには、ある共通点がありました。

 

 

50年主役が途切れない!

 

――やはり野沢雅子さんといえば少年役を、たくさんアニメでおやりになってます。アニメでの最初の少年役というのは何でしょうか?

 

野沢 「鉄腕アトム」に出てくるゲストの少年でしたね。その前に、アニメ声優デビューは「狼少年ケン」でした。レギュラーをいただいた最初の作品は「宇宙パトロールホッパ」です。

 

その後、『ゲゲゲの鬼太郎』で初めて主役をします。最初はモノクロでしたね。今、私がいる事務所の会長だった久保進さんという方が当時俳協のマネージャーで、別の劇団にいた私をとても可愛がってくださって、主役に売り込んでくれたんです。

 

とても嬉しいのは、そのモノクロの鬼太郎をやってから、ずっと今日まで、毎年なにかの作品の主役をずっと切らさずにやらせていただいているんです。私、それに気づいてビックリしたんです。

 

――すごいことですね。最初の鬼太郎は1968年ですから、今年でちょうど50年になりますね。

 

野沢 そんなになりますか。やっぱり50年ものあいだ、こういうふうに主役をさせていただけるなんて、なんて幸せなんだろうと思って。ありがたいです。

 

 

「鬼太郎」での史上初のアニメイベント

 

――50年間連続でずっと主役をなさっている野沢さんですが、その中でも、印象的なお役を三役選ぶとしたら?

 

野沢 「絶対にこの三役」というのがあります。どれも、オーディションで原作者の先生が選んでくださった役です。
一つ目が鬼太郎。次が「銀河鉄道999」の星野鉄郎。そして、「ドラゴンボール」。三本とも大ヒットしました。
鬼太郎はものすごくヒットしたので、アニメの「イベント」が初めて行われました。

 

――今、大人気になっているアニメのイベントの元祖なのですね?

 

野沢 そうです。最初はデパートの屋上でやりました。着ぐるみの鬼太郎の顔が、(両手を広げて)こんな大きいんですよ。今はウレタンとかでできているから、すごく軽いですよね。ところが、昔のはとても重くて、男性が二人で運んできて、「野沢さんこれかぶってください」って言われたんですよ。でも、男性が二人で運んできたようなものをかぶれるわけない。「ごめんなさい、私の力では動きません」と言うと、バイトの学生を探してきてくれました。

 

重い着ぐるみを被った学生さんと一緒に舞台に出ました。私が隣でセリフを言うと着ぐるみの鬼太郎が動く。学生さんは前が見えないから、舞台から落っこちそうになっちゃう。その時とっさにアドリブで、「僕、うしろに下がろうかな、何か怖いんだよな」って言うと、鬼太郎の着ぐるみが後ろに下がるんですよ(笑)。それが、今すごくいい思い出になってるんです。

 

――じゃ、アニメの声優でお顔を出された最初の声優さんになるんでしょうか。

 

野沢 そうですね。ほんとは、声優は顔出してはいけないというふうに私は思ってきました。やっぱり子供の夢を壊してしまいますから。

 

――もしその着ぐるみが軽かったら顔を出すイベントもなかったかもしれないですね(笑)。

 

野沢 そうです。今すごい軽いらしいですよ。ウレタンみたいので、できるんですって。

 

羽佐間 あとは空気で膨らませるやつもあるね。

 

――今もちろん声優さんがそのままかぶったりしませんもんね。

 

羽佐間 一人もやってないです(笑)。

 

 

「銀河鉄道999」の大ブーム

 

――「銀河鉄道999」も大ブームになりましたよね。

 

野沢 あの時は、イベントで全国縦断もしましたよ。松本零士先生は、とってもお話が上手で、イベント大好きなんですよ。ただ、先生のお話にはマル(句点)がなくて、テン(読点)でずーっと繋がっちゃう。お話は面白いけど、終わらないもんで、係りの人が私に「野沢さん出て行って、早く出て行って止めてください」って。結果、先生のお話で時間が終わってしまって、私達は舞台に出て「じゃどうも、さようなら」って言うだけ(笑)。

 

あと、先生は頼まれたら気前よく行ってしまわれるので、ダブル・ブッキングもありました。一度、北海道のイベントに行くはずが、「先生がダブル・ブッキングしてしまったので、その代わりに九州に行ってください」と言われて、びっくりしたこともありました。「じゃ北海道誰が行くんですか」ったら、機関車役の人が行くんだって。

 

――ちょっとコンピュータっぽい声の。

 

野沢 そう。柴田秀勝が行った(笑)帰って来てから、「なんで俺が北海道に行かなきゃ」「いや、私に言わないで」。

 

―― (笑)

 

野沢 当時は今のイベントと随分と違ってハプニングがたくさんありました。

 

「銀河鉄道999」といえば、その時に私、マイクを壊してしまったことがあります。東映さんで新しいマイクを入れて、「野沢さん、このマイクは今日初めて使うんです。出たばかりの高いマイクを買ったんです。指向性もあるので、野沢さんが大きな声で言う時は下がってください」。それで、一番後ろまで下がって「メーテル!」って叫んだら、止まっちゃったんですよ。あれ、トチってないのになんでだろと思ったんだけど。そしたらスタッフが入って来て、一生懸命マイクを付け替えてる。「ああ、やっぱり私の声悪いから、いい声じゃなきゃダメなマイクだったんだ」と思ってたら、終わったあとに、「実は野沢さん、あれだけ下がってもらったんですが、野沢さんの声量がすごくて飛んじゃって壊れたんです」って。

 

羽佐間 声でマイクを壊す女(笑)。すごい声量だもんね。イベントやった時、若手ばかりのなかでもマコが一番通るし、一番元気(編集注:マコ=野沢さんの愛称)。

 

 

原作は読む? 読まない?

 

野沢 「銀河鉄道999」の時、忘れもしないことがあって、東映さんのプロデューサーが、「Dr.スランプ」を持って来て、「マコこの本読んでみてくれる? 俺、今度やろうと思ってるけど大丈夫かな」って。読んだらとても面白くて、一コマ目から二コマ目が普通の流れじゃなくて、ストンと飛ぶんです。「これ面白いですね。今までにない発想ですよ。大丈夫かななんて思わないで、やってみなきゃわかんないでしょ。だから進むのよ」って言ったんです。
羽佐間 「Dr.スランプ」は、マコの後押しでアニメ化なんだ(笑)。

 

――原作の漫画は読んで研究するのですか?

 

野沢 する方が正しいと思いますが、私はしないです。あたしは、先がわかるのが嫌なんです。その人物になりたいから。今の私だって、これから五分後どうなってるかわからないじゃないですか。それが私は自然だと思ってるから。

 

それで、自分の場面の収録が終わってから原作を読んで、へえ、ここの僅かな1コマなのに、これだけに膨らましてるんだっていうのがあると、面白いんです。素晴らしいなと思って。

 

――じゃ、ほんとにその中を生きてるんですね。その世界を。

 

野沢 ああ、そうかも知れない。

 

(第6回に続きます!)

 

野沢雅子(のざわ・まさこ)
1936年生まれ。主な出演作品に『ドラゴンボール』シリーズの孫悟空、悟飯、悟天、『ど根性ガエル』のひろし、『ゲゲゲの鬼太郎』の鬼太郎、『銀河鉄道999』の星野鉄郎がある。

創声記_野沢雅子編

著:大野裕之 監修:羽佐間道夫

【大野裕之】

脚本家・日本チャップリン協会会長

チャップリン家の信頼もあつく、国内外のチャップリン公式版Blu-rayを監修。羽佐間道夫氏発案の「声優口演ライブ」の台本を担当する。著書『チャップリンとヒトラー』(岩波書店)で2015年第37回サントリー学芸賞受賞。映画脚本家としては、2014年『太秦ライムライト』で第18回ファンタジア国際映画祭最優秀作品賞受賞。


【羽佐間道夫】

1933年生。舞台芸術学院卒。劇団中芸を経て、『ホパロング・キャシディ』で声優デビュー。以来、声優の草分けの一人として数多くの名演を披露。代表作に、シルヴェスター・スタローンを吹き替えた『ロッキー』シリーズほか、チャールズ・チャップリンの『ライムライト』、ディーン・マーティン、ポール・ニューマン、ピーター・セラーズ、アル・パチーノの吹き替えなど多数。2008年、第2回声優アワード功労賞受賞。


写真= 髙橋智英/光文社

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