海外でもかめはめ波! 野沢雅子と広がる声優の世界(#6)著:大野裕之
大野裕之『創声記-日本を話芸で支える声優たち-』

脚本家・映画研究家の大野裕之さんと声優・羽佐間道夫さんが、スターたちの肉声から「声優」の歴史に迫っていく「創声記」インタビュー。第6回は、前回に引き続き、野沢さんの代表作について語っていただきました。「ドラゴンボール」の孫悟空役はいかにして決まったのか。30年同じ役を続ける技術、アニメーションを通して世界に広がっていく声優・日本語の世界、今後の野望……全6回を通して見えてきた、野沢さんの歩んだ歴史は、「声優」の歴史そのものでした。いよいよ最終回です!

 

 

スタジオに行ったら、すぐ悟空になってます

 

――「ドラゴンボール」についてお話を聞かせてください。これは代表作と言ってよろしいのでしょうか。

 

野沢 そうですよね、はい。最初のは1986年に始まりましたから、もう32年前になりますね。

 

――なるほど。それも原作者の先生から選ばれて。

 

野沢 そうなんです。かなり後になってから、鳥山明先生と対談したときに教えてくれました。「オーディションで先生が私を選んでくださったって、みんなから聞いたんですけど、嘘ですよね」って聞いたら、「いや本当ですよ。声を聞いて即決めました」って。その時に言われたのが、「野沢さんギャラが高いでしょ」って。

 

――(笑)

 

野沢 「何ですかそれ」って言ったら、「僕が、この人がいいと言ってるのに、プロデューサーが他の人を出してくるんですよ」。「どんな人出してきたって、僕はこの人がいいって言ってんですから。きっとギャラが高いんですよ」って言うから、「ぜんぜん高くありません」(笑)。

 

――選ばれた決め手は何でしょうね。

 

野沢 何なんでしょうね。私お伺いしたいですよ。

 

羽佐間 原作者が描いた絵にマッチングするんでしょうね。そういうテンションを持ってるんだ。

 

野沢 今最高に嬉しいのが、鳥山先生が「ドラゴンボール」をお描きになる時に、あたしの声が聞こえてきて、どんどん筆が進むって言ってくださったことです。

 

――へえ。

 

野沢 それはやっぱりすごく嬉しかった、聞いた時には。

 

――描いてる漫画が野沢さんの声でしゃべってるんですね。本当にあのキャラクターを創造されたんですね、声で。

 

野沢 でしょうね。私なりに一生懸命やってたんですけど。

 

――それにしても、30年以上同じキャラクターをおやりになってることに驚くのですが、どんなお気持ちでなさるのですか?

 

野沢 スタジオに行ったら、すぐ悟空になってます。分身ですよね。悟空可愛いです、やっぱり。映像の中で悟空のことをバチンて叩く人が出てくると、その役の人に「やめてください」なんて言います。

 

――(笑)

 

30年間同じ声を出し続ける秘訣

 

――30年間同じキャラクターで、同じ声を出すというのは大変なことだと思いますが、それはその秘訣は何でしょうか。

 

野沢 何にもしないのが秘訣じゃないですか。皆さんお勉強家だから、発声練習したりなんかしますが、私しません。したことないですね。

 

羽佐間 天才なんだね。

 

――僕、以前、イベントでご一緒した時に、他の声優さんは普段全員マスクをしていたのに、一人野沢さんだけがマスクしてなかったんです。

 

野沢 マスク嫌いです、しません。私ね、喉に悪いものはないと思うんです。自然体でいればいい。毎日必ずやることは、鼻うがいと、シャワーでぬるま湯をガーって喉に当てる。それだけなんです。

 

――普通、シャワーは喉に直接当てたりしませんよ。

 

羽佐間 赤髭の治療方法みたいな(笑)

 

野沢 そうすると埃が取れると、自分では思ってるわけ。

 

――羽佐間さんは喉のケアというのは、どんなことを。

 

羽佐間 何もしてないですね。風邪ひくかなという時に吸入はします。風邪の時は葛根湯を飲んでますね。叔母のオペラ歌手だった三浦環は、生卵とナメクジ飲んでたって。やっぱりぬるぬるするものがいいだろうと思ったって(笑)。それで「ある晴れた日に」をやってたというから。

 

――「ある晴れた日に」なのにジメジメしてる(笑)。しかし、このインタビューを読んでも、声優を目指す若い人にとって何の参考にもならないですね(笑)。

 

野沢 そうですよね。

 

「ドラゴンボール」の役作り

 

――何回もいろんなインタビューでも聞かれてると思いますが、「ドラゴンボール」の三役、それぞれの役作りについてお話ください。

 

野沢 私ね、舞台の役作りはやりますが、アニメーションで役作りはやったことないです(こんなこと言ったらダメだけど、私はほんとにダメな人ですから)。絵を見てて、椅子からマイクに歩いて行く間にね、スーッと絵の中にわりと入っちゃう人なんです。それで出てきた第一声が、今日まで、プロデューサーにもディレクターにも、「ちょっと別の感じで言ってもらえますか」って一度も言われたことないから、今のところは合ってるのかなと思ってます。

 

――すごい(笑)憑依するんですね。

 

野沢 それぞれのキャラクターの生活だけは頭におきます。例えば、悟空は野生児で、ご飯も食べられるか食べられないかわからない。悟飯君は育ちが全然違う。両親はいるけど、教育ママに育てられてるからお勉強家だし。そういう大まかなことは掴んでおく。

 

――そう思っているのが自然と声に出る。

 

野沢 はい、自然と。

 

――先日羽佐間さんにお伺いした時、例えば落語であったり、浄瑠璃を越路大夫さんから教わったり、いろいろなご研究の話をお伺いしたんでが、何か他のものから影響を受けたことはありますか?

 

野沢 影響を受けたというのは、ないような気がします。ただ、アニメというのは、私の肌に合っていてスッと入っていけるんです。洋画の吹き替えと違って、アニメは、飛んでる芝居ができるじゃないですか。普通だったら、そんなとこ飛ばないでしょって感じでも、アニメだと違和感ない。演劇とは随分違う。でも、基本は同じです。

 

世界に広がるアニメカルチャー

 

――「ドラゴンボール」は海外でもすごい人気ですね。

 

野沢 そうです。海外行った時も、すごい反応でした。その時に向こうの人に言われたんですが、「日本のどんな大スターが来ても、こんなに集まりません。「ドラゴンボール」はやっぱりすごいです」って。その時、レッドカーペットを初めて歩いて。それまでは、レッドカーペットなんてと思ってたけど、歩くとやっぱりいい気分でした(笑)。

 

羽佐間 すごいよ。アニメの海外の人気は。

 

――日本語で見るんですよね。

 

野沢 そうなんです。日本語をそれで覚えるんですって。

 

――国際的に日本文化を発信してることにもなりますね。

 

羽佐間 ほんと。親善大使ですよ。

 

――僕も海外でスペイン人から一通り「ドラゴンボール」のストーリーを聞いたことがあります。

 

羽佐間 フィンランドの女の子が、「犬夜叉」が好きで日本語覚えましたというので、山口勝平にちょっと電話してあげたら、涙流してた。でも、「君のお名前は?」と聞いたら、忍者物のアニメとかで日本語覚えているから、「拙者でござるか」って言うんだよ。

 

――(笑)。もう野沢さんの日本語は、今標準日本語として世界中で知られているんですね。

 

羽佐間 かめはめ波はみんな知ってるんじゃない。

 

野沢 外国のイベントで皆でかめはめ波すると、すごいんですよ。大ホールで全員立ち上がって、「カメハメハー」って。

 

羽佐間 近頃古谷徹なんかが「ドイツにちょっと行ってきます」とか。皆、来週はハワイです、シンガポールですとかって、すごいね、アニメの力というのは。

 

――でもそういったイベントの原点が鬼太郎なんですね。

 

野沢 ほんとですね。

 

――鬼太郎の重い着ぐるみから、海外進出に至るまで、野沢さんは歴史そのものですね。

 

野沢 はい。本当にありがたいです。

 

今後も少しずつ広がっていきたい

 

――最後に、今声優を目指している若い人に対して何かメッセージは?

 

野沢 私ね、後輩に対してメッセージはありません。やっぱり自分を活かしていくわけですから。先生がいて教える学校のが多いですけど、それぞれが違う芝居を持ってると思うので。役者は教えたり教わったりするものではなく、自分で開いていくものだと。

 

羽佐間 教えるとね、天分を殺すこともあるんだよ。その人の持っているものをね、潰しちゃうってこともあってね。むしろやるんだったら、発見してあげるということはあるかも知れない。メソッドなんか役に立たないね。

 

――今後の野望は?

 

野沢 このまんま活動して、少しずつ広がっていきたいです。

 

羽佐間 これ以上、広がっていきたいというのがすごくない(笑)?
野沢 私みんなには、128歳までやりますと言ってるんです。

 

――シャワー健康法で128までやる(笑)。

 

野沢 100歳でしゃんとして「ドラゴンボール」やりたいですね。

 

野沢雅子(のざわ・まさこ)
1936年生まれ。主な出演作品に『ドラゴンボール』シリーズの孫悟空、悟飯、悟天、『ど根性ガエル』のひろし、『ゲゲゲの鬼太郎』の鬼太郎、『銀河鉄道999』の星野鉄郎がある。

創声記_野沢雅子編

著:大野裕之 監修:羽佐間道夫

【大野裕之】

脚本家・日本チャップリン協会会長

チャップリン家の信頼もあつく、国内外のチャップリン公式版Blu-rayを監修。羽佐間道夫氏発案の「声優口演ライブ」の台本を担当する。著書『チャップリンとヒトラー』(岩波書店)で2015年第37回サントリー学芸賞受賞。映画脚本家としては、2014年『太秦ライムライト』で第18回ファンタジア国際映画祭最優秀作品賞受賞。


【羽佐間道夫】

1933年生。舞台芸術学院卒。劇団中芸を経て、『ホパロング・キャシディ』で声優デビュー。以来、声優の草分けの一人として数多くの名演を披露。代表作に、シルヴェスター・スタローンを吹き替えた『ロッキー』シリーズほか、チャールズ・チャップリンの『ライムライト』、ディーン・マーティン、ポール・ニューマン、ピーター・セラーズ、アル・パチーノの吹き替えなど多数。2008年、第2回声優アワード功労賞受賞。


写真= 髙橋智英/光文社

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