ミニチュアシュナウザーの虐待疑惑!? その15
新堂冬樹『動物警察24時』

ryomiyagi

2020/01/09

いかなる理由があろうとも「動物虐待」など許さない!
そんな人の心がひとつの組織となった。
動物を身を張って守る、それがTAP——東京アニマルポリスなのだ。

 

 

「いまお茶を用意しますから、お待ちください」
「いえ、お気遣いはいりません。それより、犯人から指定された期日まで時間がないのでお座りください」
 クッションソファを勧め部屋を出ようとする智美を、璃々は引き留めた。
「はい。ところで、警察の方がどうして?」
 ベッドの縁に腰を下ろした智美が、天野に視線を向けつつ璃々に訊ねた。
「今回の事件は単なるペットの虐待事件ではなく、村田さんにたいしての脅迫にもあたるので、協力して貰うことにしました」
「ありがとうございます。最初は警察に相談しようと思ったんですけど、誘拐されたのが犬なので無理だと思い、『TAP』に伺いました」
「本当は……」
 口を開きかけた天野の足を、智美にわからないように璃々は踏みつけた。
「お母様はご在宅ですか?」
 何事もなかったように璃々は訊ねつつ、スマートフォンのデジタル時計に視線を落とした。
 父親は仕事に行っているだろうから、敢(あ)えて訊ねなかった。
「母は歯医者に行っています。ミルクの件は、私に任せてくれています。あの子は、私に一番懐いていて……」
 智美の言葉が、嗚咽(おえつ)に呑み込まれた。
「大丈夫です。警察も協力してくれますから、犯人を捕まえてミルクちゃんはすぐに戻ってきますよ」
 璃々は、励ましの言葉をかけた。
「身代金の支払い期日は明日ですが、犯人は村田さんの携帯番号を知っているんですか?」
 天野が訊ねると、智美が首を横に振りながら茶封筒を差し出してきた。
 璃々は封筒を受け取り、中から四つ折りにされた用紙を取り出した。
 

 指定期日午前零時に、「東京アニマルポリス」の捜査員に五百万円の現金が入ったキャリーケースを持たせ、下記住所のビルの前にきてください。捜査員は一人だけです。それから先の指示は、同封した携帯電話に連絡します。
 もし、捜査員が周囲に潜伏していたら、愛犬を剥製にしてお返しすることになるので、くれぐれも軽率な行動はしないようにお願いします。

 

 指定されたビルの住所は渋谷区の宮益坂近辺になっており、差出人は前回の脅迫状と同じ動物虐待団体となっていた。
「剥製だなんて、ひどい奴だ!」
 横から手紙を覗き込んでいた涼太が、憤然とした。
「驚きましたね。『TAP』の捜査員に身代金を持ってこさせるだなんて、いったい、どういうつもりですかね?」
 天野が、璃々に訊ねてきた。
「『TAP』をおちょくって、困惑しているのを陰で見て快楽を得るつもりよ」
 璃々は、怒りを押し殺した声で言った。
 感情的になってはならない。
 いま、一番つらいのは智美なのだから、彼女を不安にさせないように冷静に対応する必要があった。
「やっぱり、愉快犯なんですね……」
 天野が呟いた。
「どうするんですか?」
 涼太が、璃々に伺いを立ててきた。
「ミルクちゃんの命がかかっているんだから、指示に従うしかないでしょう? 村田さんには、私が付き添うわ」
「それはそうですけど、危険ですよ。犯人は何人いるかわからないんですよ?」
「もちろん、それは最終手段よ。指定日までの二日間で、犯人を割り出すつもりよ。だから、ラブ……天野巡査に協力して貰っているんじゃない。ね?」
 璃々は言うと、天野に目顔で叱咤(しった)した。
「は、犯人に心当たりはありませんか? 村田さんは、大学生でしたよね? 逆恨みされていそうな相手とか、仲違いした友人とか……どんな些細(ささい)なことでも構いませんから、思い当たることがあったら教えてください」
 璃々に圧力をかけられ、天野が慌てて智美に事情聴取を開始した。
「そんなひどいことをする人……知り合いにいませんし恨みも買っていません……」
 嗚咽交じりに、智美が言った。
「犯人は脅迫状をメイルボックスに投函(とうかん)しているわけですから、村田さんの自宅住所を知っている人間ということになります。友人以外に、顔見知りの配送員とか出入り業者とかいませんか?」
「配送員の方や出前の方は出入りしますけど、名前も知らないような人ばかりですし……」
「個人名がわからなくてもいいですから、出入りしている業者の店名や会社名を念のために教えてください。それから、交友関係もお願いします。どこでどんなふうに逆恨みされているかわかりませんから。あと、ご両親にも最近揉(も)め事がなかったか、逆恨みされている心当たりはないかを訊いておいて貰えますか? 村田さんも、早く愛犬に会いたいですよね?」
 天野が、忍耐強く智美を説得した。
「先輩、ちょっと……」
 涼太が立ち上がり璃々に手招きすると、部屋を出た。
「なによ、大事なときに? 早くして」
 廊下に出てドアを閉めると、璃々は涼太を急(せ)かした。
「出入り業者や交友関係をすべて洗って、明後日までに容疑者を絞れるとは思えません」
 涼太が、潜めた声で訴えた。
「そうでしょうね」
「そうでしょうねって……どうするんですか?」
「犯人の要求通り指定場所に行って、お金を引き渡すと見せかけて捕まえるまでよ。そのために、ラブ君の協力を仰いでいるんだから。ラブ君で足りなければ、応援を呼んで貰うつもりよ」
 璃々は、シナリオを明かした。
 本当は、涼太がなにを心配しているのかわかっていたが、気づかないふりをした。

 

(つづく)毎週木曜更新中

動物警察24時

新堂冬樹(しんどう・ふゆき)

金融会社を経て、「血塗られた神話」で第7回メフィスト賞を受賞して作家デビュー。
『無間地獄』『闇の貴族』『カリスマ』『悪の華』『聖殺人者』など著書多数。近著に『極限の婚約者たち』『カリスマvs.溝鼠 悪の頂上対決』など
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