ミニチュアシュナウザーの虐待疑惑!? その16
新堂冬樹『動物警察24時』

ryomiyagi

2020/01/16

いかなる理由があろうとも「動物虐待」など許さない!
そんな人の心がひとつの組織となった。
動物を身を張って守る、それがTAP——東京アニマルポリスなのだ。

 

 

「見せ金はどうするんですか? 五百万なんて大金、用意できませんよね? もちろん、『TAP』もそんなお金は出してくれませんよ」
「本物は札束の両側の表面だけで、中はダミーを使うから大丈夫」
 璃々は、わざとあっけらかんとした口調で言った。
「そういう問題じゃありません。どうせ、兵藤部長に内緒で動くつもりなんでしょう?」
「保身の塊の部長が、許可すると思う?」
 璃々の予感は当たった。
 やはり涼太は、そのことを心配していた。
「だからって、勝手な行動はまずいですよ。ただでさえ、中富さんにペイント弾を浴びせたことや西宮翔の捜査で部長を怒らせてるんですから、次になにかあったら処罰されてしまいます」
「大丈夫だって。部長に、そんな権限はないわ」
「もし、なにか問題が起きたら、署長だって庇(かば)ってはくれないでしょう。先輩。お願いですから、一度、部長に話を通してからにしてください」 
 涼太が、悲痛な顔で懇願してきた。
「涼太。じゃあ訊くけど、部長に話を通したらどうなると思う?」
 璃々は腕組みをして、涼太を見据えた。
「それは……」
 涼太が言い淀んだ。
「全面協力するから頑張ってこい、って言ってくれると思う?」
「いいえ……」
「でしょう? だから、報告しないで動いているのよ」
「それがだめだって、部長にきつく釘を刺されているじゃないですか」
「そのたびに、私はなんて言ってる?」
「動物を危険から救うのが最優先……ですよね」
 涼太が、ため息を吐(つ)きながら言った。
「わかってるじゃない。部長に怒られるのが怖いなら外れていいわよ。その代わり、部長に報告しないで」
 ふたたび、涼太が長いため息を吐いた。
「僕が先輩と一心同体なこと、知ってるでしょう?」
「それでこそ、私の一番弟子!」
璃々は涼太の背中に平手を叩きつけた。
「痛いっすよ、先輩……」
「村田さんの心の痛みは、そんなものじゃないわ。さあ、戦場復帰するわよ!」
 顔を歪(ゆが)める涼太を促し、璃々は部屋に戻った。

 

6

 

 あと十五分で午前零時を迎える渋谷にしては、珍しく酔客も少なかった。
 月曜日で宮益坂方面ということも関係しているのかもしれない。
 これが「ハチ公前」だったら、もっと人込みに溢(あふ)れていることだろう。
 璃々と智美は指定された場所――宮益坂郵便局の前で犯人からの連絡を待った。
 智美の自宅マンションのメイルボックスに、脅迫状と一緒に投函されていたスマートフォンに二度目の連絡がくることになっていた。
 キャリーケースには、百万円の札束が五束入っていた。
 本物の一万円札は札束の両面だけなので、キャリーケースには十万しか入っていない。
 一度目の電話は三十分前にかかってきた。
 五百万円を確認できたら、ミルクを引き換えに戻すと智美に電話で約束したという。
 録音したが、声はボイスチェンジャーで変えられていた。
 身代金とミルクの交換方法はわからないが、確実なのは犯人サイドはキャリーケースを素早く運び去らなければならないということだ。
 となれば、車かバイクで現れる可能性が高かった。
 犯人サイドにキャリーケースを渡すときに、取り押さえなければならない。
 現金を確認されてしまうと、ダミーだとバレてしまいミルクの身が危険になる。
 斜向かいの路肩に一台、郵便局側の路肩に一台……キーを差したままのバイクが二台停めてあった。
 郵便局に併設したコンビニエンスストアの雑誌のコーナーに涼太が、コンビニから数メートル駅寄りのファーストフード店のカウンターテーブルに私服の天野が潜んでいた。
 二人ともガラス窓越しに、璃々と智美を見渡せる場所を選んでいた。
 犯人サイドが車かバイクで乗りつけ、キャリーケースを持ち去ることも想定してバイクを停車させているのだ。
 智美の自宅マンションに出入りしている配送業者、出前業者、大学の友人……天野はギリギリまで疑わしき人物を割り出そうとしていたが、結局犯人の目星はつかなかった。
「ミルクが心配です……」
 泣き出しそうな声で、智美が呟いた。
「大丈夫です。必ず無事に救い出しますからね」
 璃々は、智美の不安を払拭(ふっしょく)するように力強い口調で言った。
 正直、不安要素がないと言えば嘘になる。
 動物虐待団体を名乗る犯人は、単独か複数か?
 二度目の電話……午前零時の電話で犯人は、どんな指示を出してくるのか?
 もし、犯人が銃器を携行していたら?
 今回の事件は、いままでのペットの虐待とは明らかに違う危険な匂いがした。
「どうか……どうかミルクを……」
 智美の声を、スマートフォンのコール音が遮った。
 いや、コール音ではなくLINEアプリの通知音だった。
 犯人から指示の連絡が入る予定の午前零時まで、あと五分あった。
 智美が、不安げな顔を璃々に向けた。
「メッセージを開いてみてください」
 璃々が促すと、震える手で智美がアイコンをタップした。

 

(つづく)毎週木曜更新中

動物警察24時

新堂冬樹(しんどう・ふゆき)

金融会社を経て、「血塗られた神話」で第7回メフィスト賞を受賞して作家デビュー。
『無間地獄』『闇の貴族』『カリスマ』『悪の華』『聖殺人者』など著書多数。近著に『極限の婚約者たち』『カリスマvs.溝鼠 悪の頂上対決』など
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