ミニチュアシュナウザーの虐待疑惑!? その18
新堂冬樹『動物警察24時』

ryomiyagi

2020/01/30

いかなる理由があろうとも「動物虐待」など許さない!
そんな人の心がひとつの組織となった。
動物を身を張って守る、それがTAP——東京アニマルポリスなのだ。

 

 

「先輩、そんなにプレッシャーかけないでくださいよ……」
 涼太が、うわずる声で言った。
「取り押さえる取り押さえない以前に、初動で犯人を尾行できるかどうかもわからない状態なので……」
 天野が、不安げに言葉を濁した。
「私も、そう思うわ」
 あっさりと、璃々は認めた。
「え? どうしたんですか!? やけに素直ですね。先輩ならてっきり、男なら弱音吐いてないでしっかりしなさいよ! って、どやしつけてくるんじゃないかと思いましたよ」
 涼太が、肩透かしを食らったように言った。
「私もそう言いたいところだけど、今回はあなた達の言うことが正論だわ。そうよね~。この状況で確実に犯人を取り押さえろなんて無茶よね~。ごめんごめん、変なプレッシャーかけちゃって」
 璃々は、涼太と天野に頭を下げた。
「ちょっと、本当にどうしたんですか? そんな物わかりがよくて低姿勢な先輩は逆に不気味ですよ」 
「あら、失礼ね。私を、どんな女だと思ってるわけ? 私はただ、この作戦はあなた達の言うように無理があるって素直に認めただけよ」
 璃々は、微笑みを絶やさずに言った。
「じゃあ、どうするんですか?」
 相変わらず、天野の表情は不安げだった。
「涼太、貯金はいくらくらいあるの?」
「な、なんですか……いきなり、どうしてそんなこと訊くんですか?」
 唐突な璃々の質問に、涼太が訝(いぶか)しげに質問を返した。
「いいから、教えてよ」
 執拗(しつよう)に、璃々は食い下がった。
「百万ちょいですけど……ねえ、なんでこんなこと言わなきゃならないんですか?」
「ラブ君は?」
 涼太を無視し、璃々は天野に視線を移した。
「え? 僕も答えるんですか!?」
 天野が自らを指差し眼を丸くした。
「涼太も答えたんだから、あたりまえでしょ!」
「そういう問題じゃないと思いますけど……」
「そうだよ! ラブ君、俺もカミングアウトしたんだから言いなよ! そしたら、理由を教えてくれるんですよね?」
 涼太が、璃々に念を押した。
「もちろんよ」
 璃々は即答した。
「ということで、ラブ君、早く!」
 涼太が、天野を急かした。
「……二百万くらいです」
「え!? ラブ君って俺とタメだよね!?」
「あ……はい、たしかそうだったと思います」
「俺の倍も貯金があるなんて……警察って、そんなに給料がいいのか!?」
 涼太の、素頓狂な声が会議室に響き渡った。
「いえ、薄給ですよ。ただ、実家が裕福で、学生時代から小遣いをたくさんくれるもので使い道がなくて貯金していたら、こんなに貯まったんです」
 天野が、のんびりとした口調で言った。
 初めて会ったときから、天野に品のよさを感じていた理由がわかった。
「お前、お坊ちゃんなのか? いや、それより、先輩、どうして僕達の貯金額を訊いたのか教えてくださいよ」
「そしたら涼太が五十、ラブ君が百、私も二百ならすぐに出せるわ。あとは、百五十をなんとかしなきゃだわね」
 璃々は、脳内で電卓を弾いた。
「俺が百でラブ君が五十……先輩、なにを言ってるんですか?」
 訝しげに、涼太が訊ねてきた。
「百五十を明日までに集めるのはきついわね。定期を解約するのは間に合わないし、ウチは貧乏で親は頼れないし……」
 璃々は、独り言を呟いた。
「明日までに百五十を集めるとか定期を解約するとかって、先輩、まさか……」
 涼太が絶句した。
「そうだ! ラブ君! いまからご両親に頼んで、明日一日だけ百五十万を借りられないかしら!?」
 璃々は手を叩き、輝く瞳で天野をみつめた。
「僕の両親に百五十万を借りてほしいってことですか!?」
 せわしなく動く天野の黒目と裏返った声が、彼の動揺を代弁していた。
「そうよ。私の定期預金の通帳と印鑑を担保として預けてもいいからさ!」
「ちょ……ちょっと、先輩、まさかとは思いますが、明日の五百万を集めようとしてるんじゃないでしょうね!?」
 涼太が、怖々と璃々に訊いた。
「ビンゴ! あなた達もとりあえず、貯金の半分ならすぐに出せるでしょ? これでラブ君のご両親が百五十万を貸してくれたら、身代金の五百万が揃うわ」
「ビンゴって……もしかして、みんなで出し合ったお金を身代金にして犯人に渡す気ですか!?」
「そうよ。あなた達も言ってたでしょう? 犯人を確実に取り押さえることは難しいって。そうなると、身代金がダミーだとバレて、ミルクちゃんの身が危険にさらされる……だから、ウルトラCを考えたのよ。なにか、問題でもある?」
 璃々は、涼しい顔で涼太をみつめた。
 ウルトラC――「会議室」に入る前から、既に考えていたシナリオだ。
「大ありですよ! キャリーケースの中身が本物の札束でも、犯人を取り逃がす確率はダミーのときと同じなんですよ!? 身代金が返ってこなかったら、どうするんですか!?」
「そのときは、少し日にちを待ってくれれば私が返すから安心して」
「お金の問題だけじゃありません! この前も言いましたが、兵藤部長に内緒で犯人と取り引きするだけでもバレたら大変なことなのに、五百万を出し合って、その上、警察官のラブ君まで巻き込んで、しかも、ラブ君の親に借りてまで身代金を作るなんて確実にクビですよ! ミルクちゃんの命を救うためだということは、もちろんわかってますっ。損得を考えないで動物を救おうとする先輩の気性もわかってますっ。でも、これだけはやめてくださいっ。お願いします!」
 珍しく熱弁をふるった涼太が、頭を下げた。
「わかったわ。頭を上げて」
 璃々は、優しい口調で声をかけた。
「わかってくれて、ありがとうございます。生意気なことばかり言って、すみませんでした」
 涼太が、ふたたび頭を下げた。
「あなた達を巻き添えにするわけにはいかないわ。五百万は、私がなんとかする。二人は、ダミーだと思っていたってことにすればいいわ」
「えっ!? だめですよ! それじゃ先輩が……」
「父に、百五十万を借ります。そのくらいの額なら、明日の午前中には何とかなると思います」
 天野がそれまでの頼りない印象からは想像のつかない力強い口調で言うと、スマートフォンを取り出した。

 

(つづく)毎週木曜更新中

動物警察24時

新堂冬樹(しんどう・ふゆき)

金融会社を経て、「血塗られた神話」で第7回メフィスト賞を受賞して作家デビュー。
『無間地獄』『闇の貴族』『カリスマ』『悪の華』『聖殺人者』など著書多数。近著に『極限の婚約者たち』『カリスマvs.溝鼠 悪の頂上対決』など
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