ミニチュアシュナウザーの虐待疑惑!? その19
新堂冬樹『動物警察24時』

ryomiyagi

2020/02/06

いかなる理由があろうとも「動物虐待」など許さない!
そんな人の心がひとつの組織となった。
動物を身を張って守る、それがTAP——東京アニマルポリスなのだ。

 

 

「それにしても、見直したわ。ラブ君って、いざとなったら男らしいのね」
 迷彩柄にペイントされたバン――「東京アニマルポリス」の専用車の後部座席に座る天野に、璃々は振り返り言った。
 
――父に、百五十万を借ります。そのくらいの額なら、明日の午前中には何とかなると思います。

 宣言通り天野は早朝に実家に赴き、父親から百五十万円を借りてきたのだった。
「動物虐待団体」を名乗る犯人に指定されたのは、昨夜と同じで午前零時に渋谷宮益坂の郵便局前だった。
 智美とは作戦会議のために、南青山三丁目の交差点で午後十時に待ち合わせしていた。
「いや……男らしくなんてないですよ。僕なんて小心者です。実家に行く間中、心臓がバクバク鳴ってましたから」
 照れ笑いを浮かべつつ、天野が謙遜した。
「強がってるばかりの誰かさんに聞かせたい謙虚さね~」
 璃々はからかうような口調で、ステアリングを握る涼太に言った。
「なんすか!? それ? まるで俺が、口先だけのハッタリ男みたいじゃないですか」
 涼太が、不満げに抗議した。
「あら、違うの?」
 璃々は、ニヤニヤしながら涼太をからかい続けた。
 面白いからそうしているわけではなく、二人の緊張を和(やわ)らげるためだった。
「先輩、忘れてませんか? 俺だって、安月給を切り詰めて貯めた五十万を提供してるんですからね」
「ほらほら、そういうところがちっちゃいの。もっと、器を大きくしなさい」
「はいはい、どうせ俺は女々(めめ)しい男ですよ」
 涼太がイジけて見せた。
「あ、その発言は女性蔑視(べっし)よ」
「……すみません。ところでラブ君はさ、どうしてそこまでするの?」
 涼太が、天野に訊(たず)ねた。
「なにがです?」
 天野が訊ね返した。
「自分の貯金を百万出した上に、親父さんからも百五十万を借りたりさ。しかも君は『TAP』の捜査員じゃなく、警察官だろう?」
 涼太が、訝(いぶか)しげに質問を重ねた。
「たしかに、そうですね。僕にもよくわかりませんが、北川さんの動物を思う強い気持ちに心動かされたのかもしれませんね」
「真面目に言ってる? もしかして、先輩に点数稼ぎしようと思ってんの?」
「いえ、純粋に北川さんの力になりたいと思ったんです」
 天野が即答した。
「ラブ君、ありがとう。『TAP』の捜査員でもないのに、見上げた心意気ね! こういう正義感に燃えた子が、ウチにも入ってくれればいいのに。ね? 『TAP』に移籍しない?」
 璃々は振り返り、冗談めかして言った。
「ちょ……ちょっと、待ってくださいよ! 彼は先輩に気に入られたくて、適当なことを言ってるだけですよっ」
 涼太が、ムキになって抗議した。
「なによそれ? 私が尊敬されたら、そんなにおかしいの!?」
 璃々は、涼太を軽く睨(にら)みつけた。
「いや、そ、そういうわけではなくて……ぼ、僕が言いたいのは、ラブ君は先輩のご機嫌取りをしてるってことが言いたかったんです」
 しどろもどろに、涼太が言った。
「なんでラブ君が、私のご機嫌取りをする必要があるのよ?」
「それは……本人に訊(き)いてくださいよ」
「ラブ君、私のご機嫌取りをしているの?」
「そんなことしてません。僕は、純粋に北川さんの動物への思いに感銘を受けたんです」
 天野が、璃々の瞳をみつめた。
「ラブ君、どうしてそんなにいい子ぶるんだよ? もしかして、先輩のこと好きなのか?」
 涼太が、探るような眼を向けた。
「な、なにを言ってるんですか! そんなんじゃありませんよっ。君のほうこそ、さっきから僕に突っかかってばかりなのは、北川さんのことが好きだからじゃないんですか?」
 慌てふためき否定した天野が、逆襲に転じた。
「ば、馬鹿じゃないの! 俺が、先輩をそんな眼で見てるわけ……」
「ちょっと……二人とも、やめてよ。なんだか、むず痒(がゆ)いじゃない」
 予期せぬ展開に、璃々は動揺した。
「だって、ラブ君が、俺が先輩を好きだとか変なことを言うから……」
「先に、僕が北川さんのことを好きだと言ったのは君のほうじゃないですか」
 涼太と天野のやり取りに、璃々の頬が熱を持った。
「とにかく……いまから身代金の受け渡しがあるんだから、そんな馬鹿なことを言い合ってる場合じゃないでしょう?」
 璃々は、平静を装いダメ出しした。
「ほら、ラブ君のせいで怒られたじゃないか」
「君のせいで怒られたんですよ」
 小競り合う二人を横目に、ため息を吐(つ)いた璃々は眼を閉じた。

 

                  ☆

 

 南青山三丁目の交差点で智美をピックアップした車は、西麻布方面に下っていた。
「そこを右に曲がったところで停めて」
 璃々の指示通り車を右折させた涼太は、閑静な住宅街の路肩で停車した。
 夜の住宅街に人気(ひとけ)はなく、打ち合わせをするには最適だった。
「あれから、なにか連絡はありましたか?」
 後部シートに座った智美に、璃々は振り返り訊ねた。
「いいえ」
「そうですか。早速ですけど、段取りを説明します。前回、犯人にバレてしまったので、今回は彼らをそれぞれ宮益坂上と坂下に待機させます。犯人にバレないぶん、二人からも犯人の動きが見えません。なので、キャリーケースを引き渡した直後に身柄を押さえるのは不可能になりました」
「え……どうするんですか!? お金がダミーだとわかったらミルクが……」
 智美の表情が強張(こわば)った。
 無理もない。
 恐らく犯人は現金を確認してから、ミルクを返すつもりだ。
 キャリーケースを受け取った直後に現行犯で逮捕するという作戦が取れないと、ミルクは危険な立場に追い込まれる。
「安心して。全部、本物のお札を揃えたから」
「五百万を揃えたんですか!?」
 智美が、素頓狂(すっとんきょう)な声で訊ねた。
「そう。みんなでお金を出し合って、なんとか掻き集めたわ。だから、万が一取り逃しても、ミルクちゃんに危害がくわえられることはないわ」
 璃々は、安心感を与えるように穏やかな口調で言った。

 

(つづく)毎週木曜更新中

動物警察24時

新堂冬樹(しんどう・ふゆき)

金融会社を経て、「血塗られた神話」で第7回メフィスト賞を受賞して作家デビュー。
『無間地獄』『闇の貴族』『カリスマ』『悪の華』『聖殺人者』など著書多数。近著に『極限の婚約者たち』『カリスマvs.溝鼠 悪の頂上対決』など
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