ミニチュアシュナウザーの虐待疑惑!? その24
新堂冬樹『動物警察24時』

ryomiyagi

2020/03/12

いかなる理由があろうとも「動物虐待」など許さない!
そんな人の心がひとつの組織となった。
動物を身を張って守る、それがTAP——東京アニマルポリスなのだ。

 

 

「今度は、オウムですか……かわいそうに」
 道玄坂上の「レジデンス道玄坂」の指定されたメイルボックスに投函されていた、動物虐待団体を名乗る犯人からの脅迫状を覗き込んでいた涼太が、暗鬱な声で呟いた。
 深夜の「TAP」の会議室には、重苦しい空気が張り詰めていた。
 楕円形のテーブルに着く涼太も天野も、通夜の参列者のような顔でうなだれていた。
 智美は、会議室にきてからずっと嗚咽(おえつ)を漏らしていた。
「TAP」の職員と巡査を張り込ませていたのを二度も感づかれてしまい、ミルクがさらに危険な立場に追い込まれたことを考えると、智美がこの世の終わりみたいな顔をしているのも頷ける。
「フェイントをかければ、僕達のどちらかに動きがあると予測したってことですよね? 犯人は、恐ろしく頭の切れる男ですね。それにしても、許せません……非道にも、程があります」
 天野が、震える声で吐き捨てた。
「それとも、トリックがうまいのか……」
 璃々は呟いた。
「トリックって、なんですか?」
 涼太が怪訝(けげん)そうに訊(たず)ねてきた。
「なんでもないわ。可能性の一つを言っただけ。それより、これからどうするかよね」
 璃々は話を逸(そ)らし、腕組みをして眼を閉じた。
 いまは、まだ説明するだけの確証はない。
 それに、可能性としても高いとは言えない推理だ。
 だが、もし、璃々の勘が当たっているなら……。
「これから、どうするんですか!? 早く犯人を捕まえてください! こうしている間にも、ミルクが……ミルクが!」
 智美が、涙声で叫んだ。
「大丈夫です。犯人は、ミルクちゃんに危害をくわえたりしませんから」
 璃々は眼を開け、智美を安心させるように言った。
 安心させるための方便ではなく、璃々には確信があった。
 あとは、裏付けが取れるかどうかだ。
「どうして、そう言い切れるんですか!? 二度も続けて失敗してミルクを危険な立場に追い込んでいるのに……納得できるように説明してください!」
 智美が、ヒステリックに詰め寄ってきた。
「村田さん、落ち着いてください。我々も、最善を尽くしていますので……」
「そんな悠長なことは、言ってられませんよ。脅迫状の最後にあったように、料理法が決まったら追って連絡するとか書いてあるわけですし。もちろん、ミルクちゃんのことを指しているのは間違いありません」
 智美をなだめようとする涼太を遮り、天野が言った。
「そうね。受け身ばかりでいても埒(らち)が明かないから、こっちからも仕掛ける必要がありそうね。村田さん、今度犯人から電話があったら、こう言ってください。もう、『TAP』は信用できないから、私が五百万を指定された場所に持って行きます……と」
 璃々の出した指示に、智美が驚きに眼を見開いた。
「犯人は、『TAP』の職員に身代金を要求しているのに、そんなこと言ったら怒るんじゃないんですか?」
「安心してください。犯人は脅迫状で、『TAP』に身代金を用意しろと要求しましたが、届けろとは書いてありませんでしたから」
「私一人で、大丈夫でしょうか?」
 智美が、不安げな瞳で璃々をみつめた。
「犯人にとっては、五百万も入るし智美さん一人のほうが危険性も少ないし、身代金の出どころは『TAP』ですし、いいことずくめだと思います」
「あの……北川さん、それは危険だと思います」
 天野が、遠慮がちに口を挟んできた。
「あら、どうして?」
 本当は訊(き)かずとも、わかっていた。
「北川さんは、今回の犯人は愉快犯だと言ってましたよね? そうであれば、『TAP』の職員が振り回されたり右往左往するのを見るのが目的なので、たとえ五百万が入ったとしても『TAP』が手を引き村田さん一人を行かせるのは、納得できないんじゃないでしょうか?」
 璃々もそう考えていた。
 ただ、ある可能性を疑い始めてからは違った。
「理想はそうね。でも、これ以上の失敗は許されないわ。こっちからも仕掛けなきゃ」
「先輩、もう失敗を繰り返せないのはわかりますが、村田さんに身代金を一人で届けさせるのが、どうして仕掛けることになるんですか? お金だけ受け取って、ミルクちゃんを返さないかもしれませんよ?」
「もちろん、村田さんを尾行するのよ」
「え? それじゃあ、バレる可能性があるのはいままでと同じじゃないんですか?」
 涼太が、怪訝な顔で訊ねた。
「もちろん、リスクは付きものよ。だけど、こっちが主導権を握れるぶん、バレる可能性は低くなるわ」
 璃々は、涼太に疚(やま)しさを感じながら言った。
 敵を欺くにはまず味方から……いま、みんなにシナリオを明かすわけにはいかない。
「たしかに、北川さんの言うようにそのほうがリスクは減るかもしれません。でも、なくなるわけじゃありませんよね? 言いづらいんですが、今回だって犯人がどう出るかわかりません。三度目があったとしても、もし尾行がバレるようなことがあったら……」
 天野が、智美の存在に気づき慌てて口を噤(つぐ)んだ。
 智美がテーブルに突っ伏し号泣した。
「ちょっと、なに縁起でもないこと言ってんだよ! 村田さんを、泣かせちゃったじゃないか!」
 涼太が、ここぞとばかりに天野を非難した。
「あ、いえ、そういう意味じゃなくて……村田さん、すみません! ミルクちゃんが殺されたとか言いたいわけじゃ……」
 動揺する天野の言葉が、智美の叫喚(きょうかん)に掻き消された。
「ほら! また火に油を注ぐ……」
「静粛に!」
 璃々は、手を叩きながら言った。
「村田さん、ミルクちゃんを救いたいですか?」
 璃々の問いかけに、智美は泣き止(や)み顔を上げた。
「……そんなの、あたりまえじゃないですか!」
 智美が、涙目で璃々を睨みつけてきた。
「だったら、気をしっかり持ってください! 泣いてばかりいても、ミルクちゃんを救えませんよ!」
「ちょっと、先輩、そんなきつい言いかた……」
「あんたは黙ってて!」
 璃々は涼太を一喝した。
「ミルクちゃんはいま、大好きな飼い主さんと会えるのを心待ちにしています。それなのに、肝心な村田さんがそんなふうに取り乱していたらミルクちゃんも不安になります。犬は、飼い主さんの心を読む天才ですからね」
「でも……現にミルクは、囚(とら)われて危険な目にあっているんですよ!?」
 智美が、嗚咽交じりに言い返した。

 

(つづく)毎週木曜更新中

動物警察24時

新堂冬樹(しんどう・ふゆき)

金融会社を経て、「血塗られた神話」で第7回メフィスト賞を受賞して作家デビュー。
『無間地獄』『闇の貴族』『カリスマ』『悪の華』『聖殺人者』など著書多数。近著に『極限の婚約者たち』『カリスマvs.溝鼠 悪の頂上対決』など
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