ミニチュアシュナウザーの虐待疑惑!? その26
新堂冬樹『動物警察24時』

ryomiyagi

2020/03/26

いかなる理由があろうとも「動物虐待」など許さない!
そんな人の心がひとつの組織となった。
動物を身を張って守る、それがTAP——東京アニマルポリスなのだ。

 

 

「犯人は、村田さんをどこに呼ぶつもりでしょうか? 複数犯だった場合、危険ですね」
 天野が、不安げな表情で言った。
「お金さえ入れば、村田さんに危害を加えることはないわ」
「あの……口封じとか?」
 涼太が、恐る恐る口を挟んだ。
「馬鹿ね。映画の見過ぎよ」
 璃々は一笑に付した。
 そう言ったものの、西野からの報告で犯人の全体像が見えていなければ、璃々もその可能性を考えたかもしれない。
「そうですよね。ワンコの誘拐で飼い主に危害をくわえることなんて、ありえませんよね」
 涼太が、自らに言い聞かせた。
 智美を乗せたタクシーが甲州街道を渡り、「オペラシティ」の横で停車した。
「追い越して五メートル先で停まって」
 璃々は涼太に命じた。
 バンはタクシーを追い越し、スローダウンした。
 近くに犯人がいることを想定し、「TAP」の専用車は使っていなかった。
「村田さんが、電話をかけています」
 背後に首を巡らせ、天野が言った。
 リアウインドウにも遮光フィルムが貼ってあるので、バンの車内は見えないようになっている。
「犯人は現れるんですかね? それとも、またあちこち移動させるんですかね?」
「さあ、どう出てくるかしらね」
 涼太の問いかけを、璃々は受け流した。
 本当は、だいたいの見当はついていた。
 当たってほしいという気持ちと、当たってほしくないという気持ちが璃々の胸内で激しく綱引きした。
 リアウインドウ越しのタクシーのリアシートなので、いまいち智美の表情は窺(うかが)えなかったが、頷いているのだけはわかった。
「ずいぶん、長いですね。なにを言われているんですかね?」
 涼太が、不安げな声で訊ねてきた。
「やはり、また転々と移動させられるんでしょうか?」
 天野も、気が気ではないようだった。
「あ、終わりましたよ!」
 涼太の叫びと同時に、璃々のスマートフォンが震えた。
 ディスプレイには、村田智美の名前が表示されていた。
『村田です……』
 受話口から、強張(こわば)った智美の声が流れてきた。
「なんと言ってましたか?」
 訊かずとも、ある程度の察しはついた。
『もう……終わりですっ……ミルクが……ミルクが……ああ……あああ!』
 取り乱した智美の叫喚が、スマートフォンのボディを震わせた。
「落ち着いてくださいっ。犯人は、なんて言っていたんですか!?」
『尾行が……尾行がバレていたんです! ミルクの命はないと……いったい、どうするんですか! ミルクが死んだら、あなた達のせいですよ!』
 智美の絶叫は、受話口から漏れて涼太や天野にも聞こえるほどだった。
「とにかく、会って話しましょう。運転手さんに電話して行き先を告げますから、とりあえず切ります!」
 言い終わらないうちに璃々は電話を切り、すぐに運転手の番号をタップした。
「尾行がバレたんですか!?」
「犯人に気づかれたんですか!?」
 涼太と天野が、競うように訊ねてきた。
「話はあとよ」
『もしもし』
 コール音が戸切れ、運転手の声が流れてきた。
 背後では、智美が号泣していた。
「いまから言う住所に向かってください。渋谷区円山町……」
 璃々は、目的地の住所を告げると電話を切った。
「円山町……どこに行くんですか?」
「村田さんと合流してから、説明するわ。あなたも渋谷に向かって」
 すかさず質問してくる涼太に、璃々はシートに背を預け眼を閉じた。
 犯人がみたび出てくるだろうという璃々の予想は当たった。 
 西野の報告と合わせて、もう間違いはないはずだ。
 だが、わからないのは動機だ。
 なにが目的で、こんなことを……。
 一つはっきりしたのは、犯人が単なる愉快犯ではないということだった。

 

 

 智美を乗せたタクシーに十数秒遅れで、璃々達を乗せたバンは「新円山町ビルディング」のエントランス前に到着した。
「ここに、どなたかいらっしゃるんですか?」
 璃々に続いてバンから降りた天野が、ビルを見上げながら訊ねてきた。
「行けばわかるわ」
 璃々は天野の質問を受け流し、エントランスの前で待つ智美のもとへ、足早に向かった。
「こんなところにきて、いったい、なんのつもりですか!? ミルクの命が危ないというときに……早く、助けてあげてください!」
 智美が、泣き枯れた声で訴えた。
「ご安心ください。ここにいる知り合いが、犯人を押さえました」
 璃々は、智美の肩に手を置き言った。
「え!? 犯人を!?」
 智美が驚きに眼を見開き、素頓狂(すっとんきょう)な声を上げた。
 璃々は、力強く頷いて見せた。
「えーっ! 先輩っ、本当ですか!?」
 璃々は涼太に顔を向け、ふたたび頷いた。
「いつですか!? ここにいる知り合いって、誰ですか!?」
 天野も、狐に摘(つま)まれたような顔で質問を重ねた。
「とりあえず、入りましょう」
 璃々は天野の質問に答えず、智美を促しエントランスに足を踏み入れた。

 

(つづく)毎週木曜更新中

動物警察24時

新堂冬樹(しんどう・ふゆき)

金融会社を経て、「血塗られた神話」で第7回メフィスト賞を受賞して作家デビュー。
『無間地獄』『闇の貴族』『カリスマ』『悪の華』『聖殺人者』など著書多数。近著に『極限の婚約者たち』『カリスマvs.溝鼠 悪の頂上対決』など
関連記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を

RANKINGランキング