ミニチュアシュナウザーの虐待疑惑!? その28
新堂冬樹『動物警察24時』

ryomiyagi

2020/04/09

いかなる理由があろうとも「動物虐待」など許さない!
そんな人の心がひとつの組織となった。
動物を身を張って守る、それがTAP——東京アニマルポリスなのだ。

 

 

 ディスプレイに表示されているサイトを見た智美の顔が強張った。
「『動物アートコレクション』?」
 涼太が、サイト名を読み上げた。
「イッツ、ショーターイム!」
 西野が芝居がかった口調で、ギャラリーをタップした。
「緊縛、生き埋め、水責め、剃毛……これは、なんですか?」
 今度は、カテゴリ別に出てきたタイトルを天野が読み上げた。
「見て驚けよ~」
 喜色満面になった西野が「緊縛」の欄をタップすると、ロープで亀甲縛りにされ吊るされた様々な種類の犬と猫の画像がディスプレイを埋め尽くした。
「なんだこれ!?」
 涼太が素頓狂な声を上げた。
「CGですか?」
 天野がディスプレイに顔を近づけた。
 智美は、無言で顔を強張らせていた。 
「馬鹿言ってんじゃねえよ。本物だよ、モノホン! 次は……」
 西野が「生き埋め」の欄をタップすると、土に首まで埋められたトイプードル、ミニチュアシュナウザー、フェレット、アメリカンショートヘアーなどの画像が表示された。
「マジか……」
「嘘でしょ……」
 画像がCGではなくリアルだと聞かされた涼太と天野は、二の句が継げなかった。
 智美の膝上に置かれた手が、小刻みに震えていた。
「まだまだ!」
 西野が「水責め」の欄をタップすると、水中でもがくチワワ、ゴールデンレトリーバー、ペルシャ猫、ウサギなどの画像が現れた。
「こんなの、許せません!」
 涼太が顔を紅潮させて、ディスプレイに怒声を浴びせた。
「動物虐待のサイト……」
 天野が、震える声音(こわね)で呟いた。
「さあ、いよいよメインディッシュだ!」
 西野が「剃毛」の欄をタップした。
 ディスプレイを、全身の毛を刈られた犬、猫、鳥、エキゾチックアニマルの画像が次々と埋め尽くしてゆく。
「えーっ!?」
「これは!」
 何十枚目かの画像……ミルクの全身の毛を剃られた画像に、涼太と天野が揃って大声を張り上げた。
「こっちも見て」
 璃々は、猫とオウムの画像を指差した。
「なんで、脅迫写真がこのサイトにアップされてるんですか!?」
 涼太が、目を白黒とさせた。
「犯人が趣味で投稿したとか?」
 天野の問いかけに、璃々はゆっくりと首を横に振りながらミルクの画像の左下に表示されている日付に指を移動させた。
「この画像が投稿されたのは五年前……つまり、ミルクちゃんが誘拐される五年前に撮られた写真よ。これが、なにを意味しているかわかる?」
 璃々は、涼太と天野に交互に視線をやった。
「もしかして……」
「そう、全身の毛や羽を失ったミルクちゃんも猫もオウムも、犯人がサイトにアップした画像じゃなくて、サイトから引っ張ってきた画像ってことよ」
 天野の言葉の続きを、璃々は引き継ぎ説明した。
「ということは、つまり……」
「ミルクちゃんは命の危険にさらされているわけでもなく、なにより、最初から誘拐なんてされていない……そもそも、名前だってミルクじゃないわ」
 ふたたび天野の言葉の続きを、璃々は引き継ぎ説明した。
「嘘でしょ!」
 涼太が裏返った大声を上げた。
「嘘じゃないわ。そうよね? 村田さん」
 璃々は、天野から視線を智美に移した。
 突然、智美が両手で顔を覆い泣き始めた。
「あんまりです……ミルクが殺されるかもしれないのに……私が嘘を吐いているみたいに……」
 しゃくり上げつつ、智美が泣きじゃくった。
「先輩……いくらなんでも、まずいですよ。村田さんが、嘘を吐くはずないじゃないですか」
 涼太が、テーブルに突っ伏す智美に同情の視線を向けた。
「じゃあ、村田さんに送信された、誘拐されて毛を刈られた犬と、二度の張り込みがバレた見せしめとして送られた猫とオウムの画像が、五年前からこの動物虐待サイトにアップされていた事実はどう説明する気?」
 璃々は、三枚のカラーコピーを手にすると涼太の顔前に突きつけた。
「それは……」
 涼太が言葉に詰まった。
 天野は、複雑な色を宿した眼で嗚咽する智美をみつめていた。
 璃々も、同じだった。
 推理に確信はあった。
 疑いが芽生えたのは、二度連続で張り込みがバレてしまったことがきっかけだ。
 一度目だけならまだしも、失敗の反省を活かして二度目は、涼太と天野の配置を慎重過ぎるくらいに犯人の指定場所から離れた位置にした。
 だが、あっさりと犯人にバレてしまった。
 もう一つは、約束を破って捜査員を張り込ませた罰として、猫とオウムの写真を送ってきたことだ。
 智美に絶対に約束を守らせたいための警告なら、毛を刈ったミルクにさらなる制裁をくわえた写真を送り付けてくるほうが効果的だ。
 しかし、犯人がミルクの写真を送ってきたのは最初の一枚だけだった。
 これだけなら、智美に疑いの目を向けることはなかった。
 璃々の頭に智美の顔がちらつくようになったのは、母親が原因だ。
 いくら智美が親を心配させないために犯人とのやり取りの詳細を話していなかったとはいえ、ここまで関知していないのは不自然過ぎる。
 一緒に暮らしていたペットが誘拐されたのだから、身代金のやり取り云々は娘に知らされていなかったとしても、一度くらいは璃々に捜査の進捗を窺う電話を入れてきてもいいはずだ。
 ちょっとずつの不自然さが積み重なった結果、張り込みがバレたのではなく、端(はな)から知っていたのではないか……そして、それを仲間に伝えて動物の制裁画像のメールが智美に送られてくる手筈(てはず)になっていたのではないかとの疑心が強くなった。
 璃々が西野に依頼したのは、「マルプーの毛を刈る」、「マルプーを剃毛」、「猫の毛を刈る」、「猫を剃毛」、「オウムの羽を剃る」、「ペット虐待画像」、「動物虐待画像」、「犬虐待画像」、「猫虐待画像」、「オウム虐待画像」などのキーワードで、虱潰(しらみつぶ)しに検索させ、ヒットした画像を片端からチェックすることだった。
 この時点では、智美の自作自演を疑っていたわけではなく、犯人が自己顕示欲から自分の「芸術作品」をSNSなどで紹介しているのではないかと考えたのだ。
 なにかの手がかりが掴めれば、という思いから起こした行動だった。
 西野は気が遠くなるような労力を費やさずとも、智美の母親に事情聴取したほうが効率的だと勧めてきたが、璃々は却下した。
 母親から、智美に話が伝わる可能性を危惧したのだ。
 ミルク、猫、オウムの写真が五年前の日付で「動物アートコレクション」なるサイトにアップされていると西野から報告を受けたときに確信した。
 今回のマルプー誘拐事件は……。
「犯人はあなた……つまり、ミルクちゃん誘拐事件は村田智美さんの自作自演です」
 璃々は、テーブルに突っ伏し、嗚咽に背中を波打たせる智美に断言した。
 その瞬間、智美の嗚咽がピタリと止んだ。
 しかし、璃々にはどれだけ考えてもわからないことがあった。
「教えてください。どうして、こんなことをしたんですか?」
 璃々の問いかけに、ゆっくりと智美が顔を上げた。
 つい数十秒前まで泣きじゃくっていたはずのその顔は般若(はんにゃ)の如し恐ろしい形相になり、憎悪の籠(こも)った瞳で璃々を睨みつけてきた。

 

(つづく)毎週木曜更新中

動物警察24時

新堂冬樹(しんどう・ふゆき)

金融会社を経て、「血塗られた神話」で第7回メフィスト賞を受賞して作家デビュー。
『無間地獄』『闇の貴族』『カリスマ』『悪の華』『聖殺人者』など著書多数。近著に『極限の婚約者たち』『カリスマvs.溝鼠 悪の頂上対決』など
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