ミニチュアシュナウザーの虐待疑惑!? その29
新堂冬樹『動物警察24時』

ryomiyagi

2020/04/16

いかなる理由があろうとも「動物虐待」など許さない!
そんな人の心がひとつの組織となった。
動物を身を張って守る、それがTAP——東京アニマルポリスなのだ。

 

 

「どうしてこんなことをしたのか? だって? 自分の胸に訊(き)いてみなよ」
 智美が、低く震える声音(こわね)で言った。
 それまでとは目つきや顔つきだけでなく、言葉遣いも別人のようになっていた。
「私達が、なにをしたって言うの?」
 璃々は、自らの顔を指差しながら訊(たず)ねた。
「人を傷つけても平気なあんたには、わからないだろうね」
 智美が、吐き捨てた。
「失礼じゃないか! 先輩が、なにをしたって言うんだよ!?」
 涼太が、厳しい表情で詰め寄った。
「あんたもだよ! あんたら『TAP』が、私の大事な人を傷つけたのよ!」
 智美の金切り声が、会議室に響き渡った。
 璃々は、智美の顔をみつめ思考を巡らせた。
 記憶違いがなければ、智美とは初対面だ。
 となれば、智美の知り合いと接触したことがあるのか?
「俺達が、誰を傷つけたって言うんだよ!」
 涼太が、憤然として席を立った。
「やめなさい。座って」
 璃々は、涼太を諭しながら様々な顔を脳内のスクリーンに思い浮かべていた。
 智美は「TAP」の職員に恨みを抱いているに違いない。
 だからこそ、身代金の五百万を「TAP」に支払わせろという脅迫状を作ったのだ。
 犯人……智美の目的は、五百万ではなく「TAP」を振り回し困らせることだった。
 だが、璃々には心当たりが……。
 不意に、智美が手にしていたスマートフォンの待ち受け画像が脳裏に蘇った。

 

 ――ウチは、家族ぐるみで彼のファンです。西宮翔(にしのみやしょう)さんって、大の犬好きなんです。インスタグラムに、いつも愛犬との画像がアップされています。

 
 瞳を輝かせる智美の顔が、謎をひもといた。
「もしかして、あなたの大事な人っていうのは、西宮翔さんのこと?」
 璃々は訊(たず)ねた。
「やっとわかった?」
 智美は、璃々を睨(にら)みつけたまま言った。
「はぁ!? まさか、あんた、西宮翔のことで逆恨みしてるのか!?」
 涼太が大声を張り上げた。
「ふざけないで! なにが逆恨みよ! 現場に居合わせた翔君の親友のマリオ君が、教えてくれたの! あんた達、翔君がソルティを虐待してるとか言いがかりをつけて、逮捕したんですって!?」
 智美が目尻を吊り上げ、般若(はんにゃ)の如き形相で璃々と涼太に詰め寄った。
 マリオとは、西宮翔から頼まれソルティを預かっていたカップルの男性、健太に違いない。
「言いがかりじゃないよ! それに逮捕じゃなくて、『TAP』に連行しただけだ」
 涼太が、即座に否定した。
「逮捕も連行も同じことよ! 翔君を誰だと思っているの!? あんた達一般庶民が気軽に声をかけることの許されない大スターなのよ! しかも、目の中に入れても痛くないほど愛していたソルティちゃんを虐待しただなんて……あんた達のやったことは、翔君の輝かしい功績を汚し、純粋な心を踏みにじったのよ!」
 智美がヒステリックに喚(わめ)き散らし、血走った眼で璃々と涼太を睨みつけた。
「村田さん。それは違うわ。西宮翔さんは、ソルティちゃんが太るのを恐れて極端な糖質制限を強(し)いていたの。ミニチュアシュナウザーが一日に必要とするカロリーの十分の一ほどしか摂取してなくて、体重も平均の半分くらいで肋骨が浮き出ている状態だった。あのままだと、栄養失調で命の危険もあったのよ」
 璃々は、智美に諭すように言い聞かせた。
「そんなの、ありえないし! あんた達は、翔君がどれだけソルティのことを愛していたのか知らないのよ! 翔君が、ソルティを飢え死になんてさせるわけないじゃない! 翔君が、ブログで言ってたわ。人間だって肥満が原因で糖尿病になったり心臓に負担がかかったりするから、ソルティの食生活には細心の注意を払っているって! 欲しがるからって、なんでもかんでも与えてしまうのは本当の愛情じゃなく、ただの甘やかしだって! 翔君は自分にもそうだけどストイックなのっ。ソルティの健康を考えるからこそ、心を鬼にするときがあるのよ! 翔君のソルティにたいしての深い愛情を知らないくせに、表面的なことで虐待だなんだって決めつけて連行するなんて……私は、絶対にあんた達『TAP』を許せないわ!」
 興奮がエスカレートした智美が、唾液を飛ばしながら璃々に人差し指を突きつけた。
「西宮さんが愛していたのは、スマートなソルティなの。太ったソルティはいらない……そう言ってたわ」
「でたらめばかり言わないで! 翔君は、そんなひどいこと言わないわ!」
 智美が、髪を振り乱し金切り声で叫んだ。
「でたらめじゃないわ。彼にとってソルティは、アクセサリーだったのよ。連れて歩くのに恥ずかしくないペット……それが、彼の理想のペットだったの」
 突然、奇声を発した智美が璃々に掴みかかってきた。

 

(つづく)毎週木曜更新中

動物警察24時

新堂冬樹(しんどう・ふゆき)

金融会社を経て、「血塗られた神話」で第7回メフィスト賞を受賞して作家デビュー。
『無間地獄』『闇の貴族』『カリスマ』『悪の華』『聖殺人者』など著書多数。近著に『極限の婚約者たち』『カリスマvs.溝鼠 悪の頂上対決』など
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