ミニチュアシュナウザーの虐待疑惑!? その30
新堂冬樹『動物警察24時』

ryomiyagi

2020/04/23

いかなる理由があろうとも「動物虐待」など許さない!
そんな人の心がひとつの組織となった。
動物を身を張って守る、それがTAP——東京アニマルポリスなのだ。

 

 

「先輩っ……」
「でも、彼は変わったわ」
 涼太より先に璃々は、智美の両手首を掴んで言った。
「離してっ、離しなさいよ!」
 智美が、璃々の手を振り払おうと激しく上半身を左右に捻(ひね)った。
「連行されようとした大好きな飼い主を、ソルティは追いかけたの。栄養が足りてなくて衰弱していたソルティは足を縺(もつ)れさせて転倒したけど、懸命に起き上がってよろけながら飼い主のもとに向かったわ。命懸けでついてこようとするソルティの姿に、彼は気づいたの。純粋に愛してくれているソルティに、自分がなんてひどいことをしてしまったのかって」
「嘘よっ、嘘! 絶対に、そんなでたらめ信じないから!
「嘘じゃないわ」
 璃々は智美の手首を放し、スマートフォンを取り出し、宣誓リストのタイトルの動画フォルダをタップした。
「これを観て」
 璃々は、智美にディスプレイを向けスマートフォンをテーブルに置くと再生キーをタップした。
「えっ……」
 映像に現れた人物を眼にした智美が息を呑んだ。
『西宮翔です。僕はいままで、自分の見栄のためにソルティに取り返しのつかないことをしてきました。かっこ悪い犬を連れている姿を人に見られたくない、飼い犬が太っていると自分がだらしないと思われてしまう……考えるのは自分のことばかりで、ソルティがどれだけつらかったか……』
「説得室」のデスクチェアに座った西宮翔が、声を詰まらせた。
 傍らに寄り添うソルティが、西宮翔を心配そうに見上げていた。
「TAP」では、相当にひどい虐待犯でないかぎり、容疑者に改心を促すために「説得室」に連行する。
 心の底から反省し、二度と動物を虐(しいた)げないだろうと判断されたら、最後に「宣誓」を動画におさめ容疑者に渡す。
 人の心は移ろいやすいものだ。
 反省したときの気持ちをいつまでも忘れないようにするために、定期的に観ることを勧めていた。
『こんなガリガリになっているのに気づかないで……いや、気づいても見て見ぬふりをして……ひどい飼い主だよな。それでも僕を嫌いにならないでいてくれて……走る体力なんか残ってないのに僕を追いかけてきてくれて……ごめんな……ソルティ……ごめんな……』
 西宮翔が、ソルティを抱き締め泣きじゃくった。
「どう? 信じた?」 
 璃々は、強張(こわば)った顔でディスプレイを凝視していた智美に問いかけつつ、動画を消した。
 束の間の沈黙の後、突然、智美がテーブルに突っ伏し号泣した。
「ソルティちゃんは、西宮翔さんが有名な俳優でも、無名な貧乏人でも……たとえ犯罪者でも、同じように愛すわ。人間みたいに、肩書や損得で判断しないの。西宮さんにも、ソルティちゃんの純粋さが伝わったのよ。あなたのやったことは、許されることじゃない。救いは、本当に虐待したんじゃなかったことよ。けれど、罪は罪。本来なら、あなたも共犯者も、ここにいる天野巡査に逮捕して貰わなきゃならないわ」
 璃々の言葉に、智美が涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げた。
「私が悪いんです! 彼女は、私に頼まれて手伝ってくれただけなんです!」
 智美が、必死に訴えた。
「彼女というのは、あなたとどういう関係なの?」
 璃々は訊ねた。
「翔君のファンクラブで親しくなった友人です……」
「村田さんの頼みを聞けるかどうかは、詳しく話を聞いてからだわ。その友人に、あなたはどういうふうになにを頼んだの?」
 璃々は質問を重ねながら、眼を閉じた。
 智美の瞳の色の変化を見た璃々の心では、既に心は決まっていた。

 

(つづく)毎週木曜更新中

動物警察24時

新堂冬樹(しんどう・ふゆき)

金融会社を経て、「血塗られた神話」で第7回メフィスト賞を受賞して作家デビュー。
『無間地獄』『闇の貴族』『カリスマ』『悪の華』『聖殺人者』など著書多数。近著に『極限の婚約者たち』『カリスマvs.溝鼠 悪の頂上対決』など
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