第三話 美少女(2)
中森明夫『東京トワイライトエイジ』

bw_manami

2019/04/22

​東京の黄昏を生きるすべての世代のために!  昭和/平成グラフィティー。
アイドル、ライター、カメラマン、作家、エディターたちが繰り広げる、あのころの物語――。
『東京トンガリキッズ』の中森明夫が贈る渾身の青春小説、連載開始!

 

 

 国江義雄さんはロリコンだった。若くて美しい女の子が大好きなのだ。その点でも、やはりウディ・アレンに似ている。
 ただ、自分がロリコンであることを認めない。絶対に。それで、なぜその少女に魅かれるのかを小難しい理屈をつけて延々と語りまくるのだ。さながら自らに暗示をかけるかのように。
「そうだよ、そうさ、俺は、彼女が単に若くてきれいだから好きなんじゃない。断じて違う。俺の名誉のために言っておく。実存さ、実存なんだよ、実存に決まってる!」
 参ったな。めんどくせーな、このおやじ。でも、ま、いっか。
「国江さん、この娘の本を作りましょうよ」
 私の言葉に絶句して、握り締めていたクルミを国江さんはバリッと割った。ぎらりと目を光らせ、うなり声を上げた。

 

 国江さんは、なんでも屋だ。デザイナーが本業だが、フリーのエディターでもあり、ライターでもあって、コーディネーターでもある。
「あの人の正体は、いったい何なんですか?」
 そう囁かれ、不審がられてもいた。
 国江さんは早速、件の美少女の所属事務所に連絡して依頼を伝えようとしたが、玉砕する。向こうは大手芸能プロダクションで、野口久美子は売り出し中のタレントだ。素性の定かでないフリーのなんでも屋の言うことなど、耳も貸してくれない。けんもほろろの対応だったという。
「こうなったら遠城氏に頼むしかないな」
 遠城透は文芸編集者だ。国江さんより四歳若い。担当する作家が次々と高名な文学賞を受賞して、“文学賞製造マシーン”の異名を取る。ボディビルダーのような筋肉質で、バイタリティーの固まり、出版界の名物男だった。
 国江さんはわけを話し、遠城氏は即座に動く。電光石火だ。大手芸能プロダクションの社長室へと行った。ダブルのスーツに身を堅めた精悍な芸能プロの社長を前に、遠城氏は大熱弁をふるう。時折、国江さんが口をはさむが、実存がどうとか、ドストエフスキーがこうとか、意味不明だった。社長も困惑顔である。
「あのー、社長……いいお体をされてますね」
 遠城氏のひと言に、おっ、と相手方の目が光った。
「わかるかね、キミ?」
 上着を脱いだ社長は、ワイシャツ姿で力こぶを作る。すごい筋肉だ。すかさず遠城氏は立ち上がって、駆け寄り、社長の腕や胸に触れ、感嘆の声を上げる。二人はしばし筋肉談義に興じ、互いの肉体に触れ合い、顔をほころばせた。社長はもう上機嫌だ。
 こうして会談は上首尾に終わり、本の出版が決定した。

東京トワイライトエイジ

中森明夫

作家/評論家。三重県生まれ。1980年代から、ライター、エディター、プロデューサーとしてさまざまなメディアで活躍。著書に、『アナーキー・イン・ザ・JP』、『東京トンガリキッズ』、『アイドルになりたい!』などがある。Twitter:@a_i_jp
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