第三話 美少女(7)
中森明夫『東京トワイライトエイジ』

bw_manami

2019/04/29

​東京の黄昏を生きるすべての世代のために!  昭和/平成グラフィティー。
アイドル、ライター、カメラマン、作家、エディターたちが繰り広げる、あのころの物語――。
『東京トンガリキッズ』の中森明夫が贈る渾身の青春小説、連載開始!

 

 

「おう、中野くん、久しぶり」
 遠城透からの電話だった。
「急で申し訳ない、会いたいんだ。これから出てこられないか?」
 タクシーをつかまえて、指定の場所へと向かう。篠川との十年余りにわたる週刊誌の連載が終わって、めっきり港区方面へと出向くことはなくなった。
 車窓から外に目をやると、都心の街路樹の葉がすっかり茶色くなっている。
 六本木ヒルズが見えてきた。
 タワーの上層階にある日本料理店の個室へと向かう。扉が開くと、先に来ていた女性が声を上げた。
「中野さん、メガネ変えたんだね!」
 野口久美子だった。
 十六年ぶりの再会だ。たしかにべっこう縁から縁なしメガネに変えている。かつて私の度の強いメガネを手にして、自分が掛け「くらくらする~」と笑っていた十二歳の少女の姿が思い出された。それが今、目の前の三十歳過ぎの美しい女性と重なり合う。なんとも奇妙な感覚に襲われた。
 野口久美子と遠城透と、昔話に花が咲く。ノクミはフランス人の著名なF1レーサーと結ばれて、三人の子供がいた。現在ではスイスのジュネーブにある古城を改装した大豪邸に住んでいるという。
「中野さんもジュネーブへ来ることがあったら、連絡してよ。うちのワイナリーや、ぶどう畑を案内するから」
 ちょっと信じられない。私の中ではいまだに十二歳のノクミなのに……。時折、海外セレブのような写真を雑誌で見てはいた。彼女は、まったく遠い世界へ、旅立ってしまったようだ。
 久しぶりに“来日”した。宮川えりとは今でも連絡を取り合っているという。結局、宮川とノクミが共演したのは子供時代のお菓子のCMの一度きりだ。二人が共演する原作を私が書く約束をした件に話が及ぶ。
「ねえ、共演するんだったら、いっぱい、いいお話があったのにね……『芝桜』とかさ」
 野口久美子がぽつりと言う。
 有吉佐和子の小説なのだそうだ。私は読んでいない。二人の対照的な芸妓の人生を描いた物語らしい。それを西欧の小説と比較して、時折、英語やフランス語を交え、ノクミはさらりと批評してみせた。愕然とする。どうやら知的にもはるかに私を抜き去ってしまったようだ。

東京トワイライトエイジ

中森明夫

作家/評論家。三重県生まれ。1980年代から、ライター、エディター、プロデューサーとしてさまざまなメディアで活躍。著書に、『アナーキー・イン・ザ・JP』、『東京トンガリキッズ』、『アイドルになりたい!』などがある。Twitter:@a_i_jp
関連記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を

RANKINGランキング