第三話 美少女(7)
中森明夫『東京トワイライトエイジ』

bw_manami

2019/04/29

 数日後、電子メールが届いた。
〈ハロー、野口だ。 fromジュネーブ〉
 野口久美子からだった!?
〈こないだは、ども。最近はアインシュタインの語録を原語で読んでるよ。タメになる! 我が家はインフルエンザに襲われ、子供たちとウィルスのキャッチボールをしてます〉
 目を見張った。『ノクミ語録』の頃そのままの生意気な子供の内に、猛烈な知性が感じられる。
 返信を送った。
〈野口さんは、たまに女性誌のインタビューで見ると、海外セレブみたいな上品な口調で話してるのに、会ったり、メールだと、ノクミの頃、まんまだね……〉
 すぐに返事が来た。
〈いつも一緒のしゃべり方だったらさ、面白くないじゃん!〉
 時折、彼女からメールが届くようになる。
〈もうすぐ二歳になる三匹目の男児が猛獣化して、我が家は動物園と化してます〉
〈宮川えりちゃん、オメデタだって……よかったね! ずっと前から子供欲しがっていたから〉
 様々なやり取りをした。
 それでも彼女に伝えていないことがある。ノクミと和食屋で再会した時にも、話さなかった。いや、話せなかった、というべきか?
 国江さんのことである。
 国江さんは年を経るごとに、難しい、めんどくさい人になっていった。
 少女タレントや、年若い女子クリエイターに近づき、囲い込もうとして、逃げられ、トラブルを繰り返していた。
 やがて自分の子供ほどの年齢の女子劇作家に惚れ込んだ。異様な思い入れで、篠川と私との連載ページにねじ込もうとして、口論になる。我々に罵声を浴びせて、仕事を降りてしまった。
 それ以前に、音楽家・若本遼一とも袂を分かっている。
「なーにが世界のワカモトだ。ちゃんちゃらおかしいよ。資本主義に取り込まれやがって。あいつは革命戦士なんかじゃない。単なる、いなかっぺぇだ」
 ええっ。
「若本遼一はな、俺が高校生の時に作った活動組織のはるか後輩で、下っ端の下っ端だったんだ。世が世なら、あんな奴……処刑だよ!」
 ぞっとした。
 国江さんは、完全に壊れていった。

 

(つづく)

東京トワイライトエイジ

中森明夫

作家/評論家。三重県生まれ。1980年代から、ライター、エディター、プロデューサーとしてさまざまなメディアで活躍。著書に、『アナーキー・イン・ザ・JP』、『東京トンガリキッズ』、『アイドルになりたい!』などがある。Twitter:@a_i_jp
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