第三話 美少女(8)
中森明夫『東京トワイライトエイジ』

bw_manami

2019/04/30

​東京の黄昏を生きるすべての世代のために!  昭和/平成グラフィティー。
アイドル、ライター、カメラマン、作家、エディターたちが繰り広げる、あのころの物語――。
『東京トンガリキッズ』の中森明夫が贈る渾身の青春小説、連載開始!

 

 

 平成最後の――といわれる師走のことだ。
 突然、スマホにメールが届いた。
〈ごぶさたしております。
 ところで……国江義雄さんのことは、ご存じですか?〉
 国江さんのこと?
 最後にその名前を聞いたのは、いつだったろう。
 ああ、そうだ……例の女子劇作家との件だ。
 国江さんは劇作家とのスキャンダルに巻き込まれた。彼女は、二人の不倫関係を戯曲にしたのである。
 国江さんには、奥さんも子供もいた。それ自体、驚きだが、家族をほったらかして仕事場で寝泊まりしていた。そこで娘のように若い女子劇作家と毎夜、繰り広げた、赤裸々な性愛関係を、暴露されたのだ。その戯曲は有名な賞の候補となり、週刊誌のスキャンダル記事にもなった。国江さんの奥さんにばれて、修羅場と化す。結局、離婚……家庭崩壊へと至る。
 あげくに、国江さんは劇作家に捨てられた。
 家族も、仕事も、財産も、信用も、すべて失って、丸裸になったという。
 先のメールの主は、女性医師である。テレビでよく見るタレント文化人だ。彼女もまた、かつて国江さんに執着された。少女人形の名前の芸名で、メガネと白衣を身につけ、売り出され、やがて離反した。
 それでも律義な彼女は、自らの本が出るたび、国江さんに送っていたという。
〈……ところが、本が返送されてきました。代理人の方の手紙が添えられていて、十月末に、国江さんが亡くなったそうです〉
 愕然とする。
 国江さんが……亡くなった。
 まさか。信じられない。
 久しぶりに篠川実信に電話した。
「ご存じでしたか」
「いや、知らなかった」
 篠川は近年まで国江さんに仕事を発注していたという。あんなことがあったのに……。すべてを失って、追いつめられた国江さんの生活を心配してのことだろう。それは最後の命綱だったはずだ。
「だけどさ、ある時から、国江さんがうちの仕事に来なくなった。連絡がつかなくなったんだよ」
 ああ……自ら命綱を断ち切ったのだ、あの人は。
「篠川先生、国江さんは、そのー……偏屈な人だったですよね」
 しばらく沈黙があった。
「……大偏屈だよ!」

東京トワイライトエイジ

中森明夫

作家/評論家。三重県生まれ。1980年代から、ライター、エディター、プロデューサーとしてさまざまなメディアで活躍。著書に、『アナーキー・イン・ザ・JP』、『東京トンガリキッズ』、『アイドルになりたい!』などがある。Twitter:@a_i_jp
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