第三話 美少女(8)
中森明夫『東京トワイライトエイジ』

bw_manami

2019/04/30

 国江さんと最後に話したのは、もう随分と前である。
 たしか一緒に映画を見たのだ。
 ニューヨークが舞台の洋画で、殺し屋の中年男が、十二歳の少女と同居することになる。少女に心魅かれた殺し屋は、捕われた彼女を救出するため、単身、危険な場所へと乗り込んでゆく。
 映画が終わった後、国江さんは目を赤くしていた。
 カフェでお茶をしたが、ぼうっとしている。
「中野くんさ」
 うつろな瞳で言う。
「なんで最後にあの殺し屋は死んだか、わかるかい?」
 えっ……言葉が出ない。
 国江さんは目を見張る。
「少女を愛したからだよ」
 ……。
「少女を愛した者は……死ななければいけないんだ」

 

 中野秋夫はロリコンだ。アイドル評論家だって? いい歳して、少女に過剰な幻想を抱いて、熱く論じるなんて、気持ち悪い。
 よく、そんな批判を受けた。
 苦笑する。
 とんでもない。私なんかフェイクだ。本物のロリコンじゃない。仕事でやってるだけだ。
 そう、国江さんのような“本物”じゃない。
 本気で少女を愛して、すべてを懸けて、失って、破滅していった。
 ああいうことって、何だっけ? どう言うんだろう、誰かに教えてもらったはずだが。
 ああ……たしか。
 そうだ。
 “実存”だ。

 

(つづく)

東京トワイライトエイジ

中森明夫

作家/評論家。三重県生まれ。1980年代から、ライター、エディター、プロデューサーとしてさまざまなメディアで活躍。著書に、『アナーキー・イン・ザ・JP』、『東京トンガリキッズ』、『アイドルになりたい!』などがある。Twitter:@a_i_jp
関連記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を

RANKINGランキング