第三話 美少女(9)
中森明夫『東京トワイライトエイジ』

bw_manami

2019/05/01

​東京の黄昏を生きるすべての世代のために!  昭和/平成グラフィティー。
アイドル、ライター、カメラマン、作家、エディターたちが繰り広げる、あのころの物語――。
『東京トンガリキッズ』の中森明夫が贈る渾身の青春小説、連載開始!

 

 

 テレビ画面に、懐かしい顔を見た。
 野口久美子だ。
 隣に座っている美しい女性は、娘だという。目を見張った。姉妹のようだ。
 ノクミは、もう、四十代半ばのはずである。
 久しぶりに“来日”した。娘と一緒にバラエティー番組に出たのだ。
 二十年ぶりに女優復帰する。かつての国民的人気のシリーズ映画の最新作に出演するのだという。
 慌ててメールを送った。
 ほどなく返事が来る。
〈あらー、お元気? 映画? 田山のヨォちゃんからお手紙もらったからネ、やんなきゃって!〉
 田山のヨォちゃん? ああ、巨匠・田山洋次監督だ!
 相変わらず、ノクミだな。
 春が近い。間もなく桜の季節だ。
 “芝桜“を思い出す。
〈有吉佐和子の小説、やっと読んだよ〉
 花柳界を舞台に二人の対照的な芸妓の人生を描いた物語である。
 優等生の正子と、大胆奔放な蔦代――ノクミは、どっちの役が演(や)りたかったの?
〈う~ん、昔なら正子だけど、今では蔦代かな〉
 四十代となり、互いが母となったかつての美少女が、実現しなかった二人の共演作を、今も夢想している。
 一瞬、野口久美子と宮川えりの共演する『芝桜』が脳裏に浮かび、鮮やかに花開いた。

東京トワイライトエイジ

中森明夫

作家/評論家。三重県生まれ。1980年代から、ライター、エディター、プロデューサーとしてさまざまなメディアで活躍。著書に、『アナーキー・イン・ザ・JP』、『東京トンガリキッズ』、『アイドルになりたい!』などがある。Twitter:@a_i_jp
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