akane
2019/05/01
akane
2019/05/01
テレビ画面に、懐かしい顔を見た。
野口久美子だ。
隣に座っている美しい女性は、娘だという。目を見張った。姉妹のようだ。
ノクミは、もう、四十代半ばのはずである。
久しぶりに“来日”した。娘と一緒にバラエティー番組に出たのだ。
二十年ぶりに女優復帰する。かつての国民的人気のシリーズ映画の最新作に出演するのだという。
慌ててメールを送った。
ほどなく返事が来る。
〈あらー、お元気? 映画? 田山のヨォちゃんからお手紙もらったからネ、やんなきゃって!〉
田山のヨォちゃん? ああ、巨匠・田山洋次監督だ!
相変わらず、ノクミだな。
春が近い。間もなく桜の季節だ。
“芝桜“を思い出す。
〈有吉佐和子の小説、やっと読んだよ〉
花柳界を舞台に二人の対照的な芸妓の人生を描いた物語である。
優等生の正子と、大胆奔放な蔦代――ノクミは、どっちの役が演(や)りたかったの?
〈う~ん、昔なら正子だけど、今では蔦代かな〉
四十代となり、互いが母となったかつての美少女が、実現しなかった二人の共演作を、今も夢想している。
一瞬、野口久美子と宮川えりの共演する『芝桜』が脳裏に浮かび、鮮やかに花開いた。
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