最終話 東京の黄昏(2)
中森明夫『東京トワイライトエイジ』

bw_manami

2019/05/08

​東京の黄昏を生きるすべての世代のために!  昭和/平成グラフィティー。
アイドル、ライター、カメラマン、作家、エディターたちが繰り広げる、あのころの物語――。
『東京トンガリキッズ』の中森明夫が贈る渾身の青春小説、連載開始!

 

 

 深夜のバラエティー番組をぼんやりと見ていた。八〇年代半ばによくあった、セクシータレントの裸がやたら映る週末の下品な番組だ。
 半裸で寝そべるギャルを、白衣のマッサージ師が責め立てる。“性感指圧”のコーナーが終わった。
「さて、次は奇人さん、怪人さん、いらっしゃ~い! のコーナーでおます」
 関西芸人が異様なテンションでまくしたてる。
「ほい、今週の奇人さん、怪人さんは……」
 テレビの画面に男の顔が映る。
 あいつだ。
 私は座り直した。
〈「朝日」専門“新人類”写真家 村井アサヒ〉
 奇妙なヘルメットをかぶっていた。頭の前部に赤い大きな丸があり、そこから放射状に何本も赤い帯が伸び広がっている。旭日旗のようなデザインだ。
 VTR出演だった。
 田んぼの真ん中に突っ立っている。例の黒ずくめの服だ。
「朝日でーす!!」と絶叫すると、両腕を広げて、ジャンプした。
 日本中を廻って朝日の写真を撮り続けている――とプロフィールのテロップが出た。奇妙なヘルメットに黒いDCブランドの服、そして自転車に乗っていた。えっ、バイクじゃなかったのか?
〈バイクの免許が取れずに、断念。チャリで走ることに!〉
 笑った。
 画面に赤い光があふれ、カメラが引くと、奇妙な光景が……。
 ピンクとベージュのアーチの向こう側に朝日が昇っている。
 さらにカメラが引いた。
 ピンクのビキニのギャルが大股を開き、田んぼの真ん中に立っている。その背後にしゃがみ込んで、男はカメラを向けていた。
 カシャッ! とシャッターを切る擬音が鳴って、画面が静止する。
 ギャルの股間の向こう側に朝日を撮らえたショットが映った。
〈あらゆる女性は太陽だ! 女の又の力・力と書いて……努力!! アサヒ〉
 殴り書き文字が浮かんだ。
 スタジオの芸人やタレントたちが爆笑している。
 あっという間にコーナーは終わった。
 唖然とする。これは、ひどい。ひどすぎる。
 なぜだか顔が赤らんだ。自分のことでもないのに。
 いんちき臭い奴だと思っていたが、これほどだったとは……。
 ふつふつと怒りが湧いてきた。男に対してというより、あんな男に何がしかの好感を持った、そう、自分自身に対して。怒りが収まらない。
 さっきのテレビの演出は「やらされた」のだろうか? 自分も“新人類”がらみでテレビに出た時は、けっこうひどい目に遭った。テレビマンの体質は知っている。
 それでも、あんなことはやらなかった。
 いや、あの男のことだ……自発的にやったのかもしれない。
 ため息をついた。苦いものが残る。なるべく早く、あいつのことは忘れようと思った。
 その後、写真週刊誌やサラリーマン雑誌のグラビア頁で、男を見た。例の水着ギャルの股間の向こうに朝日を撮る場面を載せて。
 テレビ出演の効果だろう。
 村井アサヒはプチ・ブレイクした。新人類世代の奇人カメラマンとして。
 時折、男から電話があったが「あ、ごめん、今、忙しい」とすぐに切るようにした。何度かそういうことがあって、やがてもう連絡がなくなる。

 

(つづく)

東京トワイライトエイジ

中森明夫

作家/評論家。三重県生まれ。1980年代から、ライター、エディター、プロデューサーとしてさまざまなメディアで活躍。著書に、『アナーキー・イン・ザ・JP』、『東京トンガリキッズ』、『アイドルになりたい!』などがある。Twitter:@a_i_jp
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